『朝の連ドラ / ときどき連載第1回』
まるで、神さえこの景色に涙を流しているようだった。
やわらかな朝陽を受け、蜂蜜のような雨が輝いていた。果てしなくつづく草原の露を洗い流し、はるか向こうの山々を包み込んでいる。綿飴のようにちぎれた雲が秋空のなかをゆっくりと流れ去っていく。そして、虹。
ツェン・カーウェイは今、そこの小さな窓から見えた虹に吸い寄せられるかのように思わず外へ出て、ここにたたずんでいたのだ。
これほどまでに美しい朝は生まれて初めてだった。
<これでよかったんだ>
ツェンは心のなかで自分にそう言い聞かせた。そして、ふたたび振り返った朝陽に目を閉じ、きょうまでこうして自分から離れてゆくことのなかった、この甘美なまでの生を全身で味わった。神さえ祝福してくれているようだった。
<もしこれが夢なら、ずっとこのまま覚めないでくれ>
目を開けると、まだそこには朝陽があった。
<そうだ、これでよかったんだ>
ツェン・カーウェイはもう一度そう自分に言い聞かせると、ふたたび静かに目を閉じた。
鳥もなく、かすかな雨の音が耳に心地よかった。
このとき、彼が見てきたこれまでの悪夢が走馬灯のように過去がどっと蘇ってきつつも、この穏やかな朝陽に包まれながら幕を閉じようとしていた。
<おれは生きてるツ・蔀>
- October 5, 2003 8:07 AM
- [ 朝の連ドラ ]