ゴリカテ “ ゲロ古 ” の列挙

ここにいきつくまでのサイト『 Dear 』シリーズとか『 Matsudiary 』とか、かなり遡る日記たち。分類すんのも面倒なので、ここに集約。

- 今さらサラサラ、さぁ~ら皿 -

 ってなわけで、年末。
 大晦日だな。


 とはいえ、思いっきり時間がない。
 そんなこんなで、写真を使ってみようか……






 そんなわけで、まずは大掃除について。
 こういうことってやっぱ、くどくど言葉で説明するより写真でズバッと見てもらったほうが早いし、伝わるかと……
大掃除前

 とまあ、始めた当初は、こんな感じだった。
 足の踏み場もないとはよく言ったもんだけど、この場合、つま先立ちすらできない状態……で、挫折。
 その後ずっと、寝るまでウメちゃんのゲームに付き合っていた。




 それがどうだい!?
 このきれいさ……
大掃除後

 すべてここまでするのに、ざっと8時間さ。
 前日にちゃんと気合いでやってれば終わってたかもしれない……
 なにを隠そう、今はもう2006年だから。
 でも、去年のことは去年のうちにというのが俺様のポリシーであり、両親からの教えだったんだけども、結局その日に録音があったため、しかも恐ろしいほどに慌ただしかったわけ。
 去年のことだからやめればいいのに、でも、どぉ~~~~~~しても公開したかった。
 それはなぜなら……次。




 今さらながら、僕にもサンタさんがやってきたの!!
 それがコレ!!
サンタさん

 カッコイイべ??
 靴屋さんでちべぇ~っと“あ、これ欲しいかも……”とつぶやいたのね??
 そしたらこの靴が枕の上に乗っかってたわけよ!!
 あんまりいい子にしてなくてもサンタさんはやってくるみたい……サンタさんからの手紙にそう書いてあったから。
 そうそう、これをちょっと自慢したかっただけのことさ。






 では、よいお年を!!
 そんな〆で終わってみる……
 嗚呼、なんと手抜きな日記なんでしょう。

  • December 31, 2005 10:34 PM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

- カバラ数秘術 -

 今はバイト先なんで、ケータイで撮った写真とか取り込めないため、帰ったら今日こそはちゃんと書こうと思ふ。
 ってなわけで、なんとなく見つけたこの“カバラ数秘術”というのを試してみた。
 結果は下記のとおり……






◆━━━━━━━ あなたの誕生数(深層意識) ━━━━━━━◆


━━━━━━━━
誕生数 6 の性格
━━━━━━━━


感性の世界の住人で、ロマンを追い求めて生きています。ありふれた出来事には無関心で動じた姿は滅多に見せません。いつもマイペースで穏やかですが、内に秘めた感情の波は激しく傷つきやすい繊細なハートの持ち主です。


人の心に敏感で、人間関係をとても大切にしています。同情心に厚く、人の痛みに同調し癒してあげるとても優しい人です。ただ、マンネリ化すると惰性的になる傾向があり、平凡を嫌う理想の高さがあります。手に入らないものほど欲しがり、現実が見えると冷めてしまうようです。


独創性豊かで洗練された美意識を持ちとてもオシャレです。ユニークな発想で周囲を楽しませたり、大胆な冒険に憧れ個性を発揮します。でも、警戒心が強く慎重な面もあり、コツコツ努力を重ね発展していく忍耐の持ち主です。自分を信じれば理想を実現させていける運を持っています。




━━━━━━━━━━━
誕生数 6 の性格 詳細
━━━━━━━━━━━
+ 独創性、忍耐力、向上心、温厚、誠実、親切、献身的、感受性、優雅、審美眼
- 自信過剰、頑固、嫉妬、独占欲、我侭、誇張表現、自閉的、打算的、喪失感


穏やかで個性的な人です。威厳がありどっしりと肝が据わった大人の雰囲気を漂わせたり、可憐で守ってあげたい雰囲気を漂わせ、どちらにしてもおっとり型でマイペースです。


6はとても感情豊かですが、自分の中から湧き出る思いを伝えたい時だけ表現するので、衝動に振り回されるタイプではありません。精神世界の住人で夢の世界に生き、現実的過ぎると冷めるので、周囲が動揺していても動じることなく冷静です。


現実を生き抜く方法も考えてはいるので極端に現実離れしているわけでもなく、地に足がついているものの心は夢の世界を追いかけていて、この微妙な特徴が6を頼もしくしています。淡々と現実を処理し平然としているので、強く見られ頼られることが多いようです。


何よりも人の心を大切に思っているので人助けが好きで、頼られると親身になって相談に乗り、とても優しいです。多少苦しくても無理して願いを叶えてあげたり、大切な人にはとても過保護で、自分の身を犠牲にしても何とも思いません。


また、6は一般社会の基準をあまり気にしないので独自の価値観を貫いていて、人の心について語ることをタブー視しているような今の世の中で、堂々と心の大切さを語る貴重な存在です。カウンセラーのような役割をし多くの人を癒し、人望があるので自然に人が集まってきます。


頑固で説教好きなところもあり、人として間違っていると感じると厳しくなる面もありますが、醜い駆け引きを嫌っているので手段を選ばない戦略も好まず、信頼関係の上に成り立った仕事で成功していくタイプです。夢を叶えるためならどんな努力も惜しまず、見えない真実を求め精神世界や科学の世界で活躍する人もいます。


6は夢と現実の境界線を彷徨う人であり、非現実的すぎてもダメでとても難しい位置にいます。手が届きそうな少し距離があるものを好み、手にはいるのに手に入れず微妙な関係でいて、手に入り現実に変わってしまうことを避けています。


そのため突然失ってしまうこともあり喪失感を抱え落ち込み、手に入れれば空しくなり、このジレンマが6を悩ませます。実際は手に入っていても自分のものではない気分でいられるものが丁度よく、ドラマのような展開を求め、非凡な人生に憧れています。


愛情に飢えているので家庭的な雰囲気も好きで、子供ができると溺愛し子煩悩ですが、平凡すぎると空しくなるので少し変わった環境がいいようです。非凡さを求める反面安定も求めているので、見た目は平凡でも生きている実感を感情の波で感じとれるなら空しさを回避できるようです。


◆誕生数6の人◆
反町隆史、福山雅治、河村隆一、矢部浩之、飯島愛、矢井田瞳、中島美嘉、深田恭子、ユースケサンタマリア、優香、ジーコ、中島みゆき、黒柳徹子、アインシュタイン、エジソン




◆━━━━━ あなたのもう一つの深層意識(生まれ日) ━━━━━◆




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生まれ日 2 の性格
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感性豊かで夢の世界に生きるロマンチスト。デリケートで傷つきやすく、ガラス細工のようなハートの持ち主です。恥ずかしがり屋で照れ屋ですが、友好的で協調性がありみんなに可愛がられます。仲間をとても大切にしていて、大切なものを守るためなら戦う強さがあります。


いつも誰かを求めていて、自分と相手の関係をとても気にしています。人を助けるため苦労するタイプで、困っている人を見るとついつい世話を焼いてしまいます。でも、子供のような我侭な面もあり、短気で衝動的にトラブルを発生させることも。みんなに愛されたい気持ちが強く、自分を見てくれないと拗ねる寂しがり屋です。


心配性過ぎて相手の言動に過剰反応するのですが、取り越し苦労の場合が多く心配しなくても大丈夫なことが多いようです。豊かな感情は芸術的才能に恵まれている証拠でもあり、この才能が開花し活躍する人も多いです。


誕生数と生まれ日の性格をミックスしたものが人の深層意識ですが中心は誕生数です。でも、対人関係では多くの場合生まれ日の性格が表面化しやすいようです。


参考:誕生数2の詳細(生まれ日の性格が強い人ほど共通点は多くなります)




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生まれ日 2 の性格 詳細
━━━━━━━━━━━━
+ 友好的、親切、思いやり、順応性、協調性、繊細、芸術的才能、独創性
- 依存的、小心、嫉妬、被害妄想、我侭、ヒステリック、不誠実、非論理的


とても繊細な心の持ち主です。陽気に振舞ったとしても、根は恥ずかしがり屋でデリケート。深い思いやりを持ち、とても親切です。相手が何を必要としているのか見抜く才能があり、援助の手を差し伸べ力になろうとします。忙しくても相手への援助を優先したり、犠牲になることを厭わない人もいます。平和を好むため争いは嫌いなのですが、大切な人を守るためなら攻撃的になることもあるでしょう。


鋭い感性の持ち主で、芸術を通して自己表現する才能を持っています。豊かな感情と想像力、バランス感覚に恵まれ、独創性豊かです。音楽や絵画、詩の世界などで非凡なセンスを発揮したり、凡人には理解できないコレクションを持っている人もいます。ロマンチックなムードを好み、映画や小説の世界では、行間を読んだり登場人物になりきることもあります。精神世界をとても大切にしているのです。


物質面では一度手に入れたら手放さない傾向があり、執着心の強いタイプです。金銭感覚に優れているので貯金の額が凄い人もいますが、人のために出費する傾向があるようです。人間関係では独占欲が強く嫉妬深いですが、相手に依存されてばかりだと重荷に感じるでしょう。優柔不断なところがあり、相手がリードしてくれた方が嬉しいようです。


2の人は主導権を欲しがらず補佐役に徹することを好みます。気配りがきくので縁の下の力持ちが性にあっていて、才能ある人を支えるのが好きです。協調性を重視し、順応性があるので八方美人と言われることもありますが、揉め事を起こさないための自己防衛です。


ただ、人に同調し過ぎて、本当の自分を見失ってしまう人がいるようです。世話焼きに疲れ果て、人のために何もしたくない気分に陥ることもあるでしょう。何もよりも人間関係を重視するため、気配りが過剰になってしまうようです。


この気配りは、本人は無償の援助のつもりですが、実際は相手の態度に一喜一憂し、感謝の気持ちや好意を確認しているようです。相手の反応が良くないと突然態度が変わり周囲を驚かせます。不満や疑念を抱いたら、取り越し苦労を減らすためにも意思の疎通を心がけましょう。特に多感な思春期は周囲の態度に過剰反応することが多く、トラブルが生じがちです。


2の人は誰よりも依存心が強く、愛情に飢えています。誰かのために生き、愛されることで生きている喜びを感じられるのです。独身時代は不安定さが目立ちますが、結婚すると驚くほど落ち着き、良き夫や妻として温かい家庭を築こうとするようです。


◆誕生数2の人◆
窪塚洋介、引田天功、山咲トオル、美輪明宏、遠藤章造、大貫亜美、浅倉大介、安西ひろこ、関根勤、石井一久、曙太郎、筑紫哲也、加藤登紀子、吉川晃司、岸谷五朗、内田春菊




◆━━━━━━━━ あなたのペルソナ(外的印象)━━━━━━━━◆


本心を隠している時の性格です
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ペルソナ 2 の性格
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生まれ日とペルソナの数字が同じです。誕生数の性格が抑圧されやすいため、ストレスが溜まりやすく各数字の短所が表面化してしまうかもしれません。抑圧させない心がけが必要になるでしょう。






 ……とまあ、こんな感じだったわけだ。
 おまえに俺様の何がわかるっつんだよ。
 しかしだねぇ~……
 やっぱし占いって楽しいや。
 自分に都合のいい部分だけ信じるとかなんだかんだ言ったって、結局全部が気になるという怖いもんでもあるけど、やめられねぇ~。
 ってか“占い”って、“当たる・当たらない”の問題じゃないんだよなぁ~……
 まっ、そのへんは人それぞれのとらえ方次第なんでね。
 好きな人は一度お試しあられよ。
 嫌いな人はやめとけよ。

  • December 29, 2005 6:09 AM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

- ここ最近の俺様 -

 いやぁ~、最近の俺様、ホント寝てない。
 ここの更新もかなりひさびさな感じだ。
 というのも、開くの自体がひさかた。


 ここんとこいつもはバイト先から書いてたんだけども、そこはさすがに師走。
 たいがい暇な時間があるのに、どうだろう。
 まあ、寝てないせいで暇を見つけてはマッハで眠るという感じの今日このごろではあったけども……そんな感じ。
 運送会社は今あたりがちょうどピークなのだ。
 クリスマスのプレゼントやらお正月の贈りものやら、年内に発送しないと着かないだとか、単に年内のうちに発送しておきたいっていうだけとか。
 年末年始といえど、さすがに運送会社も休むわけだ。
 だったら、年末年始に暇だぁ~暇だぁ~って嘆きたくなっちゃうような方、年末年始限定で宅配でもやりゃ~大幅な小遣いを荒稼ぎできるかと思ふ。
 個人的なところじゃ信頼とかの問題もあるかとは思うけど、それでも需要はかなりあるかと思われる。
 あるいは、運送会社からも依頼されることだってあるかと……けっこう融通きかないから、運送会社って。
 まあ、インターネットなんていうツールもあるわけだし、そのへんで宣伝しながらということでどうだろうか……


 ……そんなわけで、まとめて一気に近況日記。


 まず、親知らず抜いた当日の次の日、その喜びを声も高らかにしゃべり倒して、音声ファイルでここに載っけてやろうかと思ってたのに、あっさり不可。
 文章も結局、却下。
 チャリンコも没。
 ジャンバーも没。
 ズボンもパンツも上の服も、没。
 ここ最近俺様に起こったそのなにもかもが、未公開のままこの頭のなかだけで眠るハメになってしまった。
 残念である。
 あぁ~、ホントいろんなことがあったのに……あんなことやこんなこと、そんなことやどんなことまで。
 ホント無念で仕方ない。いや、あんなことやこんなことは書かないほうがよろしいのかもしれまいに。


 とまあ、そんなわけで、なんやかんやありつつもネオンのきらめくこの季節を迎えたわけだ。
 光り輝くイルミネーションに、それにも負けないぐらいきらびやかな女性のメイク。
 そして誰もが心のなかに育んでいるクリスマスツリー……STAR。
 まあまあまあまあ、とはいえ、クリスマス・イヴもクリスマス本番も、急遽普通にバイトということになった俺様さ。
 この時期、独身奇族の俺様に予定なんてありゃせんが……


 にしても、口が開かねぇ~……痛い。
 日本の伝統にして最高の料理と呼びたいおにぎりが食べられない。
 母ちゃん、おじぎりぃ~。
 ああ、マジであの具もなにも塩味だけのおむすびを口いっぱいに頬張って食べてぇ~だぁ~。
 これ、ホントにあごはずれてんじゃねぇ~か??
 なんもしてなきゃ痛くもないし、まったくもって腫れてもいないのに、口を開けば、そっからモゲるんじゃねえかというぐらいの激痛が疾走する。
 これが顎関節症というやつか??
 そのまま失踪してくれりゃ~いいのに……
 あぁ~、ハンバーガー食べたいよぉ~。
 とにかく、頬張りたい。
 この痛みはいつ取れんだ??


 まま、歌はもう部屋で歌うぐらいの分には、まったくもって滞りなく問題ないんだけど……でもカラオケはムリっぽいな、こんな程度じゃ。
 あぁ~、早く“ああ、そういえば抜いたね”とか言えるぐらいにならんかのぉ~。


 ってな感じで、ここ最近の俺様報告終わり。

  • December 24, 2005 6:50 AM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

- AC -

 “15時までには来ていてくださいね”
 僕は、15時までに行けばいい。
 しかしながら、どうどこではき違えたのか、そのとき僕が靴を履いたのは、14時46分だった。
 そのとき僕ははたと思いだした。
<そういえば、バイト帰りに見たとき、ウォ~クメンの電池残量が少なかった>
 すぐにリュックからそれを取り出し、予備のバッテリーと入れ替えた。
 雪が降って、もう外は冬道だった。
 そんななか猛烈に自転車をこぎながら、僕はまたはたと気づく。音楽が鳴らない。
 リュックの肩パッドにくっつけてあるクリップを見ると、バッテリーを示すマークがゼロで点滅していた。さっきのやつよりさらに少なかった。
「マジかよ……」
 雪道にキャーキャー言いながらもひとり言。
「……ちゃんと充電したべや。なんでリュックに入れてるだけで減んのよ」
 ≪セブン・イレブン≫に入るちょうど手前の短い信号待ちで、バッテリーをまた替えた。
 ちゃんと鳴った。流れはじめたのはテレサ・テンさんの『つぐない』だった。
「……お酒飲むのもひぃ~とりぃ~、歯医者行くのもひぃ~とりぃ~……」
 そして僕は、またキャーキャー雪道と戯れながら、歯医者さんへと向かった。
 今にして思えば、そのときなんとなく感じたヤな予感、あれを僕はもっと重く受け止めるべきだったのかもしれない。

 15時2分前に到着。
 息切れ上等。
 血まみれの急患かというぐらいの勢いで機械に飛びついた。
 受付を済ませると、もうあとは呼吸を整えながら長い廊下を歯科口腔外科に向かって歩いて行った。
 途中、水が飲めないってことで、うがいをした。

 歯医者さんは、恐ろしい混みようだった。
 いつもなら、けっこう埋まってるとはいえ、まばらにもあいた椅子がある。でもその日はそれがなかった。
 僕はとりあえず、歯科口腔外科の受付に行った。
 もうご無沙汰だったから受付のしかたも忘れてたけど、それもすぐに終わった。
 で、待つ。
 『君に読む物語』を読みはじめた。

「受付番号“336番”の方ぁ~」
 やっと呼ばれたとき、もうかれこれたぶん2時間近く待ってたと思ふ。
 『君に読む物語』は、かなり僕に読みまくっていた。ひさびさにかなり進んだ。
 結果的に良しとしよう。
 もう2度目だし、要領はわかってる。
 看護婦さんの指示どおり、ロッカーに荷物を入れて、基本票をもらった。
「今日はお車で来てないですよね?」
「はい」
 自転車ですから。たぶん車より危ないと思います。

 さぁ~て、点滴だ。
「あ、点滴の方?」
 “中央点滴室”からたった今出てきた女医さんに訊かれた。
「はい、そうです」
「あ、じゃあ、椅子で待っててくれる? そこだから」
「あ、そうなんですか?? はい、わかりました」
 待機。
「“665番”の方ぁ~?」
 左隣のスキンヘッドなおじさんがなかに入っていった。暇だから見てると、奥さんが水のペットボトルを持って1歩だけ進んでそのおじさんを気遣っていた。
 やがて隣におかしな二人組が現れた。おじいさんのほうは、海外のマフィア映画に出てくるボスのようにしわがれた声で、若いほうに話しかけていた。
 あぁ~、暇すぎる。
 点滴でもかなり待った。
 やっと呼ばれてなかに入ると、前回のときと同じ看護婦さんだった。なんか安心。
「あ、今日、ホントは何時からだったの?」
「ああ、15時半」
「ああ、ホントぉ~。かなり待たされてるねぇ~。ごめんねぇ~」
「いえいえ。今日は忙しいんですか??」
「え? なんで?」
「いやぁ~、なんかいたるところで看護婦さん忙しいそうだから」
「ああ、なんか気遣ってもらっちゃってごめんねぇ~?」
「いえ、別に……」
「ってか、なんで看護婦さんて走らないの?? どんなに忙しそうでも誰ひとり廊下走らないよね」
「ああ、そう言われてるからねぇ~。みっともないって」
「ああ、そうなの」
 いつの間にか点滴の準備も終わっていた。
「はい、じゃあ、ちょっとチクっとするからねぇ~」
「はい」
「あ、やっぱり痛かった?」
 “やっぱり”?? なぜだ??
 憶えててくれたのか??
「ええ、やっぱダメですわ」
「そっかぁ~」
 看護婦さんが管を腕からはずす。
「あ、あの、なんか血管の外壁を突っつかれてるみたいに痛いんですけど」
「え? これは?」
「あ、それはだいじょぶ」
「これは?」
「だいじょぶ」
「う~ん……なんかしびれてる感じとかある?」
「……いや、基本的にしびれてるんで」
「でも漏れてるとかないし、やっぱり刺したあとは痛いよ? 針刺したところじゃなくて?」
「う~ん、そんな感じもするかな。まあ、だいじょうぶかと思われます」
「漏れてたりしたらまた刺さなきゃダメだよ?」
「え?? あ、じゃあだいじょぶです。問題なし、オッケ」
「そ」
 看護婦さんは笑っていた。
「もしなんかやっぱり痛いとかあったら呼んで?」
「はいィ~」
 看護婦さんは振り返った。そのうしろ姿がたいへん忙しそうに見えた。
 それでも俺様は呼び止める。
「あ、そういえば、これって麻酔じゃないんですよね??」
「あ、うん。違うよ? これ、なんも入ってないから。けっこう患者さん間違うんだよねぇ~」
「ああ、やっぱり」
「うん」
「っていうかね?? おれさぁ~、麻酔効かないんだけどだいじょぶなんでしょうか??」
「え? ホントに?」
「そう。前の手術のときもずっと起きてたのです」
「えぇ~、じゃあ最後まで意識あったの?」
「うん。最後に“はい、終わりましたよぉ~”って言われたの聞いたのさ」
「ウソぉ~」
「ホントだってばよ。だからもうイヤなのです。今日は寝たい。寝てるあいだに終わってほしいのです」
「そうだよねぇ~。じゃあ言っとくから」
「うん。よろしく」
「じゃあ、歯科衛生士さん迎えに来るから」
「はいィ~」
 また暇な時間が訪れた。今日は天井の模様を目で追っていくことにした。


「はい、じゃあまた戻りますねぇ~」
 歯科衛生士さんがやってきた。
 僕はベッドから上体を起こした。
「はいィ~」
 見ると、文字どおりの仏頂面。かるくフテくされてるかのよう。
「あ、ああ、こうでしたっけ」
「いや、こう」
「あ、はい……すいません」
 点滴を吊るす棒を支え、なぜか勝手に自分が謝ってしまう。そんな威圧感さえ漂っていた。
「あ、前に麻酔効かなかったんだって」
 さっきの看護婦さんがわざわざやってきて、ホントにその歯科衛生士さんに言ってくれた。つくづく話せる人だ。やっぱ、こういう人好きだなぁ~。
 しかぁ~し!!
 その歯科衛生士さんときたら、ほぼ無視。もしかしたら鼻で笑ったのかぐらい、反応がなかった。
 同じ病院にいて、同じ女性なのに、こうも違うもんかねぇ~。ムカつくわぁ~、こういう人。
「じゃ、あとからついてきてくださいねぇ~」
 こちらも見ないでスタスタ先に行っちゃうのだよ、まったく……
「あ、はい」
 こうも話せない人ってのは、俺様としてはもうほぼ危機的状況。精神がもう蝕まれていくのがわかる。イライラしてしょうがない。これもまた男の性というやつか……
 で、待合ロビーにたどり着く。そのたった短いあいだなのに、一瞬たりとも和まなかった。
 まあ、スキがないというのか、どうしょもないというか……まことしやかに遺憾の意だ。使い方間違ってるけど。でもそんな感じだったよ、あの空気感。
 イラ立ちとフテくされた感じが、とってもエアリーな女性のヘアースタイルのように心の先がはねていた。
「それであの今 ――」
「はい」
「 ―― ちょっと場所があけられないので、ここでちょっと待っててもらえます?」
「え?? あ、はい」
「すいません」
 また待機。


 なんたるや、この恥ずかしさ。
 旅のおともが点滴の棒だ。しかも歯医者さんで点滴なんて、入院してるわけでもないのに……んなやつ見たことないぞ。
 呼ばれたらさっさとなかに入れるよう、受付のすぐ前の一番端っこに座った。
 なにもしないでただボケーッとしてるのも変かなぁ~と思って、とりあえず点滴の袋とか棒とか、そのグリップの硬さとかを調べて過ごした。


「あ、やっとあきましたんで」
 フテ人が呼びに来た。呼ばれるときぐらい別の人が来てくれるだろうと期待してたのに。
「あ、はい」
「すいません」
「いえ」
 あとについてなかへ。
 手術を執り行う仕切りへ行く途中、やくさん崩れとすれ違った。
 お互いに挨拶はなかった。
 でもこういう場合って、俺様からするもんなんだろうか??
 まあいい。
 さぁ~て、待ちに待った個室だよ。


「………」
「………」
「………」
「……あ、あの」
「あ、座って」
「あ、はい」
 なんかしゃべれよ。ちょっとでいいから笑いを挟めてくださいよ。
 っていうか、なんであんたと二人っきりなんだよ!! ほかの看護婦さんはどうした!! 高橋さんはどうした!?
 まあ、来るはずもないさ。見るからに混んでたし。ああ、わかってたさ。
 でもかわいい人がチラッとでも顔出してくれるとか、なんかあんだろう……
 と、俺様が寝てる術椅子に歯科衛生士さんが腰をおろした。俺様の体の脇だ。おもむろにだ。
「はい、じゃあモニターつけるからねぇ~」
 なに座ってんだよ。座る必要なんかねぇ~だろう!! 俺様の肉をケツで挟むな!!
 しかもなんで急に甘い声だしてんだよ!!
 チェンジだ、チェンジ!!
「はい、こっちもだからねぇ~。ごめんねぇ~」
 準備が進む。
 う~ん、手際が悪い。
 そして最後には、俺様の上になにかのコードをぶちまけやがった。
「それじゃあちょっと、口開けてねぇ~」
「はい」
 消毒と麻酔だ。
 そしたらこれだよ。
 ベロンベロンに濡れた綿を口のまわりに塗りたくりやがる。
「口のまわりも消毒するからねぇ~。口閉じててぇ~」
 もうちょっとやり方ないか??
 赤ちゃんのヨダレ拭いてんじゃねぇ~んだからさぁ~。
 もう口を開けることもできやしない。
 ちょっと経って男の先生が入ってきた。
「はい、じゃあ麻酔入れますからね」
 先生が隣に座った。なかなか気の弱そうで人のよさそうな感じだった。口もとあたりが皇太子さんをかすめてた。
「あ、はい。あ、あの」
「はい?」
「前回、麻酔が効かなかったんですけども」
「あ、そうなの?」
「だから今日は絶対寝たいんですが」
「あ、じゃあ多めに入れとくね」
「はい、お願いします」
 静寂のなか、それが俺様のなかへと染み込んでいく。
「はい、じゃあもう少し待っててくださいね」
「はい」
「それじゃあ滅菌されたマットかけますからねぇ~。手とかもう上げないでねぇ~」
「はい」
 そしてあのマットが顔の上にかけられた。
 そしてついにそのときが、その足音とともにやってきた。
 やっぱり意識ありMAX。
 今回はさらに、意識がより覚醒したかのような感覚だった。すべての声、物音、衣擦れの音まで聞いた。
 改造人間もこんな感じなのか。痛みを感じないだけで、ただそれだけの感覚の集合体。
 痛みを感じないというだけで、それ以外の神経はこうも研ぎすまされるもんなのか。
 口を思いっきり開けられて、痛みを感じないけれど、あごがはずれそうだっていうのはわかった。
 “滅菌されてるマットだから触らないで”って言われたマットに、歯医者さんは体ごと乗っかっていたのも知ってる。
 もう途中からあきらめてもいたんだけど、でもやっぱり寝てたかった。


「……はい、終わったよぉ~」
 終わった。
 また終わった。そして、またその声を聞いた。
 マットがはずされたときには、ひときわまぶしさを感じたもんだ。
 そして場所移動。
 今回は、足取りもしっかりしていて、自分からそこへ入っていったぐらいだ。
 同じ歯科衛生士さんにベッドを案内され、そこに腰を下ろす。
 その歯科衛生士さんは仕切りのカーテンを閉め、その隙間で僕にかけてくれるタオルケットを準備してくれていた。
「あの……」
「はい?」
「なんか怒ってます??」
 いよいよ我慢できなくなって、ついに訊いてしまった。
「え? なんでですか?」
「いや、なんとなく……」
「いえ、怒ってませんよ?」
「そうですか……あの、僕のこと嫌いですか??」
「え?」
 さすがにその歯科衛生士さんも驚いた様子だった。そこにちょっとスキができた。笑ってはいないものの、フテくされたような表情がさっと消えた。
 サプライズは大切だと改めて知った瞬間だった。
「わたしのこと嫌いですか?」
「好きですよ??」
 そう言ったらどんな反応するだろうと、ちょっと試してみたいという衝動に駆られたけど、それはグッと堪えた。
「いえ」
「じゃあ、しばらく休んでてくださいね」
「はい、わかりました」
 歯科衛生士さんはカーテンを完全に閉めて、去っていった。
 僕はベッドに横になった。


 ……すぐに僕はベッドの上で起き上がった。
 まったく寝れない。意識がまったくよどんでない。濁りのかけらもない。むしろ冴え渡っていた。
 女の人が入ってきた。
 僕のところに来てくれるもんだと思っていたら、隣のカーテンを開けたようだった。
 僕はもう帰りたかった。休む意味がないんだものねぇ~。
「だいじょうぶですか?」
「……あ、ええ、はい」
 その女性は、思いっきり寝ぼけた口調だった。いいなぁ~と、純粋にうらやましかった。
「もう少し休んでいかれますか?」
「……あ、はい」
 看護婦さんと話す声を聞いてると、ちょっと若そうでよさげな声音だった。
 魔の手は暇人に忍び寄るって『バスケットボール・ダイアリーズ』のなかでレオナルド・ディカプリオのお母さん役の人が言ってたけど、まさにそのとおりだった。
 カーテンを少し引いて、そちらさんにちょっと話し相手になってもらおうと思った。
 手は伸びた。でもムリ。
 俺様ももういい大人だ。そのへんのことはわきまえてる。
 それからしばらく、歯科衛生士さんが来てくれるまで、ずっとベッドの上にあぐらをかいて待っていた。

 で、歯科衛生士さんが来てくれて、無事僕は、しっかりと地面の感触を踏みしめながら歯医者さんをあとにした。
 今回の料金、6673円。
 ホント親知らず貧乏だな……歯医者で破産なんてシャレにもならん。


 ……ってなわけで、今回のデスマッチを終えてわかったこと。
 俺様の体は、本気でまったくもって麻酔が効かないんだということ。
 

 普通に話せる。
 笑える。
 メシも食える。
 歌もうたえる。
 ただ、口が開かない……


 いや、嘘。
 それは嘘です。
 口は開く。
 でも、自由自在じゃない。
 それが今回、唯一の後遺症だ。あごはずれたか??
 あとはまあ、なにかを飲み込むと、なんかのどが痛む。こりゃ骨になんらかの干渉してやがったな。よもやリンパまできてたか??
 まあ、前より多少埋まってたしな。
 とはいうものの、それもほとんど治った。ハニーミルクもガブ飲みさ。
 ただいま我が家では、驚異的なスピードで牛乳がなくなる。1週間で8本が空になる。
 まるで湯水のように消費する。
 これが完全に治ったあかつきには、とりあえずお祝いとしてまっ先に《らっきょ大サーカス》へ行こう!!


 まあ、なにはともあれ、これで完全におさらばだ!!
 あと残ってる抜糸なんざ屁でもねぇ~。
 早く大口開けて笑いたい。歌いたい。
 歌いたい。
 歌いたい。

  • December 16, 2005 2:59 PM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

- 刻々と時が過ぎる -

 そして最後の晩餐……
 食器も洗った。
 なにも食ってない。
 シャワーも浴びた。
 歌もうたった。
 もう少しで水も飲めなくなってしまう。
 今日ばかりは、金曜のような気分にはなれない。
 あとは歯医者へ行くだけだ。

  • December 13, 2005 1:07 PM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

- DC -

 親知らず2本目とのデスマッチを明日に控え、最悪の精神状態。
 ……もうイヤだ。

 そして今日はといえば、神経を抜いた個所の治療で、歯医者へ行くことになっておる。
 歯医者貧乏也。

 今度こそ、ちゃんと麻酔が効いて、寝てる間に終わってくれることを願うばかり……
 いい加減、日本も欧州のどこかの国のように医療が無料になってほしいもんだ。
 保険料払ってもらう保険証で無料っていう証明にしてくれたらなぁ~。

 しかし、今回の抜歯が終われば、あとはもう抜糸をして普通の歯医者に通えばいいだけなので、なんとも気がラク。
 歯も自然治癒してくれたらいいのに……
 人間、肝心なところでうまくできてないのぉ~ぅ。

 それにしても、ついに雪が積もってしまい、自転車で通うのはつらい。つらすぎる。
 かといって行かないわけにもいかないので、中途半端に遠いということで悩む。
 歩いて行ったら開店時間に間に合わぬし、その日の天気なんて当日になってみないとわからないしなぁ~……

 歯医者は、雪が降る前に行きましょう!!

全文を、この続きから読ませてください

  • December 12, 2005 4:02 AM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

- K:tie 大破 -

 昨日はきちんと予約の時間どおりに歯医者さんに到着。
 というか、ジャスト。≪ルーシー≫開店と同時だった。
 最近学んだのは、普通に正面のドアから入るより、まわりこんで横のほうのドアから入ったほうが、直接続くエレベーターに乗れるということ。
 いざ出陣……




 着くと、いつものように受付のお姉さんがいた。
「おはようございまぁす」
「あ、おはようございますぅ」
 診察券を小さなクリアケースに入れて、待機。
 開店と同時に来たってのに、すでに4、5人の人が、俺様より一足先に待ち状態だった。
 まあ、たしかに俺様がエレベーターのボタンを押したときには、もうエレベーターも3階で止まった状態だったからな。仕方あるまい。
 ひたすら待機。




「松田さぁ~ん」
 呼ばれた。そう待ってはいない。
 顔を上げると、いつもの担当の女の人だった。
「あ、はいぃ~」
 手袋とかリュックを持って立ち上がる。
「こんにちわ」
「あ、ああ、こんにちわ」
 とここで、ちょっとした違和感を覚えた。
 けっこう病院だとか店員さんっていうのは、こういう挨拶に気を遣うもんだろう。
 しかしながら、朝一番から“こんにちわ”ときたもんだ。
 これはおかしい。
 “おはようございます”のほうが“こんにちわ”よりも他人行儀なのかどうなのか……
 看護婦さんのなかで、俺様に対する見方にごくわずかながらも変化が起こったんだろうか……
 そんなことを考えながらうしろをついていく。
 まあ、なにはともあれ、メッチャ脚が細い……そして長い。スカートが短いっていうのもあるかもしれんけど、きっとジーパンがよく似合うだろうってのは間違いない。ブーツカットだ。いや、ここは思いきってホットでも際立つだろうな。露出させるわけだし、際立たせるためにはくズボンなんだろうが。
 よく見かける細すぎる脚っていうんではなく、まさに美脚である。今までの27年間でも、あそこまできれいなシルエットを描くラインは、数えるほどだろうさ。
 いやはや、素晴らしいです。




「今日はこちらです」
「あ、そうですか」
 このたびは、靴を脱いですぐのブースであった。
 なんとも緊張感がみなぎってくる。
 いっぱい人が来る。見られる。ここへ来ただれもが通る場所だ。さっきから子供も歩きまわっている。
 ままままま、見られたって困ることはないさ。お忍びで来てるわけでもない。
 ジャンバーをかけてもらい、リュックを床に置く。手袋と耳かけ、マフラーを取って、そして最後にはずしたサングラスを壁に直接つけてある小さな棚の上に置く。
「おはようございまぁ~す」
 ふと気づくと、昨日は違う人らしい。初めて見る人だった。
 いや、助手としていつか覗きこまれたこともあった気がする。
 この顔……こないだテレビで見た奥菜恵さんと、今CMに出てる風吹ジュンさんを掛け合わせて、若くした感じ。
 ものすごいわかりづらいかと思うけど、とにかくかわいい。
 かわいい顔してババンバぁ~ンって感じ。黒髪を後頭部あたりで1つに結び、はっきりとした目鼻立ちに笑顔。大人と子供が共存した印象。一番男を惑わすお顔立ちと言えましょうか。
 まあいい。
「ああ、はい。おはようございますぅ。よろしくお願いします」
 椅子に腰かける。
「それでは前、失礼しますねぇ~」
「はいぃ~」
 ここに座ったら必ず視線のいくところがある。それは壁にかかった“ヴォイニッチ手稿”によく似た絵だ。それがとても気になる。
「先生来るまでまだちょっと時間あるので、もしよろしかったら……」
 と覗きこむその手には、雑誌が2冊。『HOKKAIDO WALKER』。左側の表紙は、さくらさんだった。
 女と男を並べられると、どうしても自然と女のほうに手が伸びる。まあ、普通にさくらさん好きってのもあるけど……ああいう顔が好みらしい。
「あ、だいじょうぶです。どうも」
「そうですか?」
「あ、はい、どうもです」
「はい」
 そう言って彼女は雑誌を持ってどっか行ったけど、その後しばらくのあいだ、彼女はなにかと道具をイジッたり、そんな必要あるのかわからんが口をゆすぐ機械の水の調節をしたりと、僕のまわりから離れることはなかった。
 ここは話しかけるべきか??
 いやいや、ここで話しかけたら負けだ。もしかしたらあの担当の人に“あの人、なんかいっつも話しかけてくるんだよねぇ~”とか吹き込まれたのかもしれない。
 なぬ!?
 避けられてるのか、俺様??
 いやぁ~、俺様ったら考えすぎ。自意識過剰。
 ということで、ひたすら待機。




 来た。
 しかし昨日は、いつもの担当の歯医者さんじゃなかった。
 挨拶もなく、いきなり施工開始。使い方間違ってるけど、ホントそんな感じだった。
 習字でものすごい達筆な字を書く書家さんのように、かなり手馴れた感じの作業ってことなんだろうけども、なんとなく“担当じゃねぇ~のになんでおれがやらなきゃなんねぇ~んだよ、めんどくせぇ~。ちゃっちゃと済ませてはい、次次”みたいな振動を随所に受けた。
 根の治療のつづきで、昨日は根を詰めたっていう話だったけど、そのときそれを入れたあと、なんかピンセットみたいのを突っ込んで、そのままプランプランとか振り子みたいに動かしやがった。
 しかもそのときの手さばきったらもぉ~……先を突っ込んで、ピンセットの持つとこらへんをかるく弾き、あとはその勢いで2、3回勝手に振れるのを待ってたっていう感じ。
 “ちょっと響きくからねぇ~”って、おまえが響かせてんだろうってことだ。そんな必要あったのか??
 まあ、ドリルみたいなのでイジられたときには、そら響くだろうなってのはわかるけども、さすがに掘りながらよそ見はなくないか?? よそ見するなら手は止めてくれ。しかも時計。
 んで帰ってきて、なんかそこが気になると思ってベロで触れてみると、なんかトンガッたものが出ていた。差し込んだ根の器具の一部かと思いきや、歯磨きしたら取れるし……単に塗った薬のはみ出しだったようだ。
 なんかもう昨日の歯医者さんは踏んだり蹴ったりだったような気が……
 ああいうやつはホントお医者さんになっちゃいけないんじゃないかと思ふ。
 忙しいのはわかるさ。
 でもそれもわかっててお医者さんになったんじゃないのかと。お医者さんで“暇な医者がいいなぁ~”なんて心構えでなる人なんていないだろうて。
 とりあえず優しい口調で話しかけてあげて安心させてあげればいいってもんじゃないだろうに……
 とはいえ、お医者さんとはいえ、そんなたいそう立派な心意気でっていう人も多くはないだろうさ。きれいごとばかりじゃないもんな、世の中。
 銭で買えちゃうものと銭じゃ買えないことの共存する世の中なわけでね。
 でも、だからって、時にあたかも虫歯みたいに扱われるそのきれいごとのほうを、現実という名の薬で詰めてしまうのは間違ってんじゃないかな。
 やっぱ“話”というやつは、話のできる人、話せる人、話のわかる人とするべきだな。話せない、話のできない、話のわからない人とはするもんじゃない。
 そんな人と話したところで、結局虚しくなったり退屈だったりして、挙句の果てには自分を責めるようになったりするのがオチなんだよな。
 たかが挨拶1つにしたってそうだ。
 普段話さないやつがポッと出てきて、いきなり話せるようになるかって、なるわけないしな。
 まあ、そのへんは仕方ないさ。
 しかしまあ、なんだ。
 昨日は看護婦さんたちとはいつもよりちょっと仲良く話せた感が残り、歯医者さんならではの楽しみもあったので、今回は見逃そう。
 きっとほかにも患者さんがたくさん待っていながら、忙しいなか俺様の処置をしてくれたんだろう。
 ありがとう、歯医者さん。




 とちょうどそっち側に行ったわけだしということで、そのまま美容室へ。いつものごとく≪Chelsea SW3≫也。
 しかし、メッチャ混んでた。
 パーマだか毛染めだか知らんが、とりあえず奥に4つ、手前に2つ並ぶ椅子のうち4つが塞がり、さらにはヨッシーが壁の向こうでシャンプーをしていた。
 心の迷いを感じつつも椅子に座って待っていた。
 奥から2番目の椅子でカットをしていた真理ちゃんが、しばらく経ってこちらへ歩み寄ってきた。微笑みはすれど、さすがに疲れているようだった。
「あ、どうも。なんかすっごい忙しいみたいね」
「ああ、松田くぅん。今日は髪?」
「ええ」
「あぁ~、でもとりあえずカットで4人待ちだけど、どうします?」
「それってどれぐらい??」
「う~ん……1時間ぐらいかな」
「マジっすか。まあ、かるく見積もって1時間、最低で1時間ってことでしょ??」
「うん~、そだねぇ~」
「1時間かぁ~……どうすっかなぁ~」
「でも1時間ぐらいだったらいつもどおりじゃないですかぁ」
 真理ちゃんが笑って言う。
「まあねまあね。2、3時間ならいつもどおりなんだけどねぇ~」
「じゃあ待ってて。ここで待ってて」
「う~ん……ただ黙ってずっと待ってるってのもねぇ~」
「まあね。今妊婦さんいるから、煙草も吸えないですしね。じゃあ、お昼すぎぐらいにまた来ます?」
「あぁ~、いや今日はちょっと、やることがあるんで……あ、じゃあ、それ終わったら来ますよ」
「はい。じゃあ、お待ちしてます」
「はい。じゃあ」
 僕はまたイヤホンを耳に押し込んで、お店のドアに手をかけた。
「それじゃあ、お先に失礼しまぁ~す」




 ってことで、帰宅後すぐに作業開始。
 やることやって美容室へGO。
 到着すると、男性の方が毛染めしていた。奥には女性がもう1人。
 帰ろうかとも思ったけど、昨日やらないとまたしばらく行かないような気がしたんで、とりあえず読書待機。
 15時12分。
 そして真理ちゃんの担当していた女性の方がお帰りになられた。
 ドアのところ、僕の隣まで来てお客さんを見送ったあと、真理ちゃんが片付けを始める。
 なぜか俺様はそちらを見ないようにしていたら、ふと目が合って微笑みが空気に乗ってやってきた。迎えに来てもらえないもんだから、まだ作業が残ってるのかと思いきや、銀幕のなかの女優さんがやるように視線で促された。
「あ、はい」
 真理ちゃんがこちらへやって来る。
「どうぞ?」
「あ、はい」
「水、飲みます?」
「はい、いただきます」
「はぁ~い」
 立ち上がるとまずは、カウンターに行った。真理ちゃんも奥に入る。来てからずっと着たまんまだったジャンバーを脱いで、お店のカードを渡し、リュックを預けてから、椅子に向かう。すぐに煙草を忘れたのを思い出して、ジャンバーの左ポケットから取り出した。
「松田くん、今日カット」
「ええ、お願いします」
 とカウンター越しに答えて先に椅子に座る。
 カルテに書き込んだあと、真理ちゃんが歩み寄ってきた。
「いやぁ~、すいまっせぇ~ん。2回も来てもらっちゃって」
「いえいえ」
「煙草吸いますよね」
「ええ」
 すると真理ちゃんが灰皿を取ってきてくれた。
「で、今日は?」
「あぁ~。あの、じゃあ、前と同じ髪型にしてください」
「前と同じ?」
「ええ、前の髪型がとても好評だったので」
「おぉ~。やった」
「だから前と同じ髪でお願いします」
「はぁい」
 真理ちゃんがオーダーしたという皮製の道具ケースからピンを抜き取って、ところどころ髪を留めた。
「あ、そういえばインターネットに写真載せたんですか?」
「ああ、載せましたよぉ」
「どれ載せたんですか?」
「頭の上から撮ったやつ、ここでも好評だった」
「自分で撮ったやつ?」
「違う違う。なんかこのへんから撮ったやつ」
「あぁ~。何回も撮りなおした甲斐ありましたよ」
 と真理ちゃんは、ケースから鋏と櫛を取り出した。
 散髪開始……




「……えぇ~!?」
 真理ちゃんは開始早々、作業の手を止めて爆笑。
「親知らずで全身麻酔って聞いたことないよ?」
「まあね、あんまり聞いたことないやな」
 とりあえずひさびさだったし、最近の話ということで、歯医者さんの話題。
 別にネタとかいうつもりはないんだけど、やっぱりこれはどうやら笑ってもらえるようだ。
「松田くんっておっかしいよねぇ~」
 あぁ~、話題は尽きないねぇ~。ホンット、尽きないねぇ~。
 男と話してるとけっこう話が途切れたりするんだけど、どうしてだろう、女の人が相手だとそれがない。たしかに男と話してれば話題はだいたい決まってたり、ただのおしゃべりができる男ってのもあんまり見たことないけど。
 内容がないとか実のないただのおしゃべりってやつは、男にとって“無駄”としか思えないのかねぇ~。男の脳はマルチに対応できないとか本にもあったのを読んだことあったけども、なんでこうなにかと“女のおしゃべり”とあらば、たいがい眉間にシワ寄せるかねぇ~。
 会話っていうジャンルのなかでは、個人的に一番大事なとこだと思ってるんだが……それに、あれほど楽しいもんないのに。
 まあ、真理ちゃん自身、おもしろいし話しやすいっていうのも大いにあるんだけども。
 もうもうもうもう、ずぅ~っと話の途切れることがない!!
 そして真理ちゃん、よく笑う!! まあ、職業柄だとかそのへんのインサイドな話も聞けたりなんかして。もちろんラジオの話も宣伝兼ねてしといたさ。そのへんは抜け目なくってことで。
 しかしまあ、これだからやめられないのよ、《Chelsea SW3》はさ。
 髪切るのはもうあとまわしでいいから、とりあえずしばらく話しててくださいってお願いしたくなるぐらい楽しいやな。
 とにかく話は途切れることなく、話題から話題へと飛び移り、二転三転してめまぐるしい展開を見せる。
「なんか卵みたいなんですけど、だいじょうぶですか??」
 鏡のなかの自分を眺めて僕はつぶやいた。
「え? ああ、まだすいてないから。とりあえず長さ決めちゃおうと思って。だいじょうぶですよ?」
「そうですか」
「伸びた分ぐらいしか切ってないし。でもまったく同じ髪型はできないですよ?」
「そうですか」
 そしてはたまた話は変わる。
「そういえばわたしたちの写真も載せたの?」
「ええ、もちろん」
「どれ載せたの?」
「あの普通に二人で並んでるやつ」
「あ、ホントに載せたんだ。普通に載せたの?」
「いや、ちょっと加工させてもらったけどね」
「え、なに? 加工って?」
「いや、ただちょっとセピア調にしてみただけなんですがね」
「へぇ~、そしたらかわいく見えるの?」
「ん~、まあ、ちょっとだけ」
「なんだ、ちょっとだけかい。失礼だなぁ~」
「いやいや、違うって。もとがいいからさ」
 とまあ、そんな感じで真理ちゃんとの会話にまず沈黙はない。
 ヨッシーはもうずっとお客さんにかかりっきりで構っちゃくれない。ちょっとセクハラしてみたんだけども、まるで効果なし。
「まさか普通に訊いてくるとは思ってなかったから」
 ヨッシー冷静。
 しまいには真理ちゃんからそのお客さんのお兄さんに“こんな大人になっちゃダメだよ?”とまで言われる始末。
 ほかのお客さんまで巻き込んでの談笑会となるのであった。




 僕の散髪が完了するころ、女性のお客さんが1人現れ、髪を洗ったあと僕がハーブエステをしてるあいだ、その女性はまつ毛パーマを施す仕切りのなかに消えていった。その前になぜ手を洗ったのか疑問だった。
 ハーブエステが終わるとほぼ同時に、ヨッシーが担当していたお客さんが帰っていった。
「いやぁ~、松田くん、ホントお待たせしちゃってすいませんねぇ」
「い~え~」
「じゃあ、流しますねぇ~」
「はいぃ~」
 シャンプー台へ。
「あ、そういえば、美容室で頭洗うとき、脳卒中だかなんだかになるって知ってる??」
「あぁ~……なんか高齢の方とかでしょ?」
「あ、そうそう。頸動脈破裂とか。でもやっぱ知ってるんだぁ。だいじょぶなの??」
「うん。そんな、だいじょぶでしょう」
 ちょっと頭の位置を下げてみる。
「いやぁ~、もう腹へったわ」
「えぇ? なんも食べてないの?」
「おうよ」
「えぇ~、ホントにぃ~? なんで?」
「なんで?? なんでってなんでよ」
「だって1回帰ったんだよね?」
「あぁ~。いやぁ~、帰ったんだけどなんも食わずにやってたんでね」
「え? 帰ってなにやってるの?」
「う~ん……ラジオの編集??」
「え? ラジオ? ラジオやってるの?」
「ん~、まあ。一緒に住んでるやつと」
「へぇ~、そうなんだぁ~。どこでどこで?」
「ん~、インタネットゥ??」
「へぇ~。だれでも聞けるの?」
「うん、聞けるよ」
「へぇ~、すごいね」
「あ、じゃあ今度、うちのラジオにゲストで出演してよ」
「えぇ~」
「いやいや、Chelsea SW3のヨッシーと真理ちゃんでぇ~すとか言えば、わたしのサイトではもう有名だから。見てくれてる人ならすぐわかると思うし。理毛とかの宣伝も兼ねてさ」
「いや、そういうのはムリだと思うけど」
「そっかぁ~……」
「あ、今日って仕事?」
「今日??」
「あ、そう。今日の夜?」
「ああ、ええ。そうなのよぉ~」
「何時から?」
「12時」
「えぇ~!? 寝る時間ないじゃ~ん!!」
「だから帰ったらすぐ寝ようかなんか食おうかどうしようかなぁ~と思って」
「でも寝れないよねぇ~」
「いやいや、ところがバッコン寝れるんだな」
「そうなの?」
「うん。空腹より睡眠のほうが強いから」
「そうなんだ」
 で、そんなこんな話してるうちにシャンプーが終わったらしかった。
「あれ??」
「え?」
「なんか今日、あれ、あのぉ~、親指のやつやってくれてないんじゃない??」
「あ、そうだっけ?」
「うん」
「あ、ごめんごめん。じゃ、やりますねぇ~」
「いや、いいんだよ?? 全然気にしてないからさぁ~。なんかすごい忙しかったみたいだし、疲れてるだろうしさ。そんな日もありまさぁ~ね」
 いやぁ~、親指で額の生え際あたりで円を描くように広がってくマッサージなんだけど、これが気持ちいいんだ。
「シャンプーついてるときにやればよかったね」
「……許す」
「ホントぉ~? やったぁ~」
「いやいやそんな、ケツの穴のちっちぇ~男じゃないさ」
「そうだよね。あ、そういえば今度、やっとうちにもインターネットつくさぁ~」
「あ、そうなの?? ああ、でもそうか。ついてないって言ってたもんな」
「でもどしたの急に」
「いや、別に急にっていうわけじゃないんだけどね」
「あ、そうなの?? あ、ただ機会がなかったというかそんな感じで、前々からそういう予定ではあったのか」
「うん」
「じゃあもうテレビ電話できんじゃん」
「え? そうなの?」
「うん」
「でもそれ、だれでもできるの?」
「できるよ、相手もパソコン持ってればね」
「ああ、相手も持ってればね」
「んだんだ」
 んで、がっつり頭をすすいでもらって、椅子が起きる。まったくもって自力で起き上がろうとしなかったら、ヨッシーが笑っていた。力抜いてくれていいとはいえ、さすがにそういう輩はいないらしいな、やっぱ。
「ああでも、相手の顔見るためにはカメラいるけどね。あ、いや、こっちが顔見せるにはだ」
「ふぅ~ん、カメラねぇ~」
「でも、とりあえず電話にはなるな。だからもう電話いらねぇ~ぜ??」
「あそっか」
「しゃべり放題さ。って、あ、終わりか。なんかいつまでも頭拭いてるからまだなんかあんのかと思って。終わりね、はい」
「あ、うん」
 と、ヨッシーに頭を拭いてもらいながら椅子に戻った。




 椅子に座るとなんかまた新鮮な気分になるから不思議だ。椅子が違うってだけで気分も全然別のものになるんだな、これが。椅子は大事さ。
「松田くんて、カラオケとか行くの??」
「あぁ~、そういえばこないだ行ってきたわ」
「あ、そうなの?」
「うん。でもなんかイマイチだったけどね」
「イマイチ? イマイチってなに?」
「いやぁ~、全然汗かかなかったし」
「え? 汗?」
「うん。そうよぉ~?? カラオケ行ったらもう汗だくよぉ~?? 汗、かかない??」
「そうなの? 松田くんて、歌うの?」
「ああ、メッチャ歌うよぉ~?? え?? なに?? 歌わないと思った?? そんなイメージ??」
 鏡越しに訊いてみる。
「うん。ちょっと意外」
「あそう?? ガンガン歌うよぉ~?? こちらとしてはちょっと心外」
「でも松田くんて、カラオケでなに歌うの?」
「なぁに歌うのってかぁ~……なに歌うか……なに……なんだろう……」
「やっぱ世代もの?」
「世代もの?? なにそれ」
「いや、年代的なものとかさぁ~」
「あぁ~。でもやっぱ自分で歌ってて気分いいもの歌わないとね」
「ああ、そうだよねぇ~。最近の歌、高いもんね。声つらくて」
「ああ、浜崎さんとか??」
「うん」
「たしかにね。でもあんまし歌ってて高いとかって感じたことないんだよねぇ~。男の歌うたっててつらいとか感じたことないんだわ。だからわかんないんだよねぇ~、そういう声つらいとかっていう感覚が」
「あ、そうなの?」
「うん」
「じゃあ、けっこう出るほうなんだね」
「うん~、そうみたいね」
 チラッと鏡のなかで隣の真理ちゃんを見てみるも、まったくこちらを気にとめることなく、担当のお客さんと和気藹々とおしゃべりしながら仕事に励んでいた。
「だから歌うのってなんだろう……」
「へぇ~」
「……やっぱSkoop On Somebodyとかぁ、ゴスペラーズとかぁ ――」
「えぇ~!? Skoop歌うのぉ~!?」
「うん、歌うけど」
「すごくなぁ~い? ゴスペラーズはいたけど、Skoop歌える人ってそうそういないよ?」
「そうなの??」
「うん、いないよぉ~? あ、聴きたい聴きたぁ~い」
「あ、なんか一緒に住んでるやつの話では、おれが歌うとみんなあの人が歌ってるように聴こえるらしいよ? それもどうかとは思うけどね」
 ちょっと気分よくして調子こいてそんなことまでついつい口走ってしまったな。まあ、ウメちゃんの言葉だけども。
「えぇ~!? そう? へぇ~、でもそうなんだぁ~。すごくない?」
「う~ん……んまあ、それはやっぱ嬉しいやな。あとはまあ、ゴスペラーズとか、あと最近ちょっとコブクロさんかなぁ~」
「あぁ~、ゴスペラーズはいいね。でも『永遠に』ぐらいで、さすがにSkoopはいないよぉ~?」
「あらら。でもやっぱSkoop On Somebodyはいいでしょう。はずせないさ」
「うんうん。あれはいいねぇ~」
「あとはまあ、コブクロさんも最近はけっこう多いかなぁ~」
「あぁ~、いいね」
「『ここにしか咲かない花』とかアツくていいやな。あとはぁ~、ゆずとか??」
「え? 歌えるの?」
「うん。『飛べない鳥』とかけっこう普通に歌えたり。声はけっこう高いらしい」
「へぇ~」
「あ、終わり?」
 鏡越しに話しながらドライヤーが終わり、どうやらセットも終わったようにヨッシーの手が止まった。
「ううん。あとはチェック」
「あ、はい」
 鏡のなかでヨッシーがチョロチョロッと髪の毛をイジくる。
「いいね、この髪型。今までで一番いいんじゃない?」
「そう?? やった」
「うん、すごいいいと思う」
「そうかしらん??」
「うん、ホントいいよ」
「やった!! じゃあさ、次また来たとき“じゃあこれの髪型”って言ったらすぐできるように写真撮ってくれない??」
「えぇ~、だってないもん」
「ああ、そっか。ジャンバーの左側に入ってるから」
「あ、うん」
 ヨッシーはいざ俺様のジャンバーへ。左側のポケットから携帯電話を持ってきてくれた。
 閉じたまんま黙って手渡された。
「あ、はい。どうも」
 このとき思ふ。いつも俺様は思ふ。
 なんで開いて使わないのか……
 撮ってって言ってんだから開いて撮ってくれたらいいのに……なにをそんなに気を遣ってくれるんだろうかと。
「はい、じゃあこれで。お願いします!!」
 ヨッシー、アングルを試行錯誤。
 1枚目。
「どう?」
「いいんじゃなぁ~い??」
「うん、いいねぇ」
 2枚目。
「いいねぇ~」
 そして3枚、4枚と撮ってもらった。
 完璧だ。
「松田くんって次の休みいつなの?」
「休み??」
「うん」
「休みねぇ~……う~んと……えぇ~、明日??」
「あ、そうなのぉ?」
「うん~、そうなのよぉ~。明日とあさって」
「あ、そうなんだぁ~」
 お?? 俺様なんかちょっと、誘われてる?? ここでカラオケ誘えってか??
「でも今日バイトだから、早く帰って寝ないといけないんだよねぇ~」
「そっかぁ~。そうだよねぇ~」
「うん~……って言ってもラジオの編集なんだけどね」
「あ、そうなの? でもけっこうちゃんとやってるんだね」
「ああ、やってますよぉ~。音楽は意外とケッコーちゃんとやってるんだぜ??」
「うん~。じゃあ、オリジナルとかないの?」
「ああ。あるよ?? だからゆくゆくは自分らの歌も録音して流そうかなぁ~と」
「あ、そうなの??」
「うん。いや、そうだよ?? そのためのラジオだからね。そんな音楽やらないんならラジオなんてやらないよ。あくまでおれのなかでは音楽のためのぉ、ラジオだからね。結局音楽やらないで単なる趣味みたいな感じで終わるならやる意味ないからね」
「そうなんだ。けっこうマジメにやってるんだね」
「やってますよぉ~、そりゃ。まあ、一緒にやってるやつはバラエティ担当とか言ってたけどね」
 アハハとヨッシーが笑った。
「ああ、バラエティ担当なんだ」
「おれはあくまでミュージシャンとしてやってんだけどね。おれはミュージシャン担当みたいよ?? で、彼がバラエティ担当らしい」
「そうなんだ」
 と、ここで隣のカットが終わったらしかった。
「でもそういう人ってけっこういるの?」
「そういう人?? そういう人って??」
「いや、だから、そやってインターネット上でラジオみたいにして音楽とかやってる人?」
「あぁ~……いるね。ああ、けっこう多いね」
「へぇ~、そうなんだ」
「やっぱ自由だしタダだしね。寒いとかもないし」
「そっかぁ~。でもさあ、ラジオってなにしてんの?」
「あぁ~、ただしゃべってるだけ」
「あ、そうなの?」
「うん。今はね??」
「で、どんなことしゃべってるの?」
「あ、いや、ただダラダラとしゃべってるだけ。特になにかついてとかもなく」
「あ、そうなんだ」
「まま、今はね。だからそろそろ自分らの歌も録音してかないとねぇ~」
「そうなんだぁ~。じゃあインターネットきたら聴くわ」
「おうよ。ぜひとも聴いてやってくれ」
 そこで真理ちゃんがやってきた。ヨッシーもうまいこと話をまとめるなぁ~と関心しきりだった。
「いやぁ~、ホントお待たせしちゃって」
「いえいえ」
「そういえばさっき写真撮ってませんでした?」
「あ、ええ」
「どうしたんですか?」
 その真理ちゃんの問いには、ヨッシーが答えた。いや、真理ちゃんの顔がまずそちらに向いていた。
「いやぁ~、この髪型いいよねぇ~って言ったら、今度来たときすぐあの写真見せればやってもらえるようにって」
「えぇ~? さっきなんて卵みたいって言ってたくせにぃ」
「卵?」
「いや、あれはさぁ~」
「いや、まだすく前で前髪がそろってて、なんか上から乗せたみたいな」
「あぁ~」
「そゆこと」
「でもいいよねぇ~?」
 ヨッシーが真理ちゃんに問う。
「うん、すごくいいと思う」
 まあ、自分で切った頭だし、そこでダメとは言わないだろうけども、言われて悪い気はしないやな。
「いやぁ~、今日松田くん来てくれてよかったよね」
「うん」
「え?? なんで??」
 ってなわけで、その答えは聞けぬまま、散髪終了。




「松田くん、ゆっくりしてくんでしょ?」
「えぇ~?? 帰って寝ないといけないってのに?? 今何時よ」
 真理ちゃんと二人して時計を見に行く。
「あ、もう5時半だって」
「Oh, Fu...」
「来たときは3時とかだったのにね」
「ホントだよ」
 と言いつつも、お会計を済ませ、リュックを受け取ってテーブルの椅子に腰を下ろす俺様。
「とりあえず一服してもいいですか??」
「ええ、どうぞ?」
「あ、灰皿灰皿……」
 カット席にあったそれをヨッシーが持ってきてくれた。
「……まだ入ってるけど」
「いやいや、問題なし」
 “水商売かよ”とちょっとツッコミたくなったけども、それはなぜか僕のなかのなにかが止めさせた。
 煙草に火をつけ、明日に気をつけ。はるか遠くに視線が漂った。
 お会計のときに交わした真理ちゃんとのやりとりが脳裏をよぎった。
「だって、理毛ローション、10人に売ったら9000円だよ?」
「うん。まあ、でもそのへんはさ、とりあえずちゃんと成果出てからってことで」
 う~ん……悪くない話ではあるけども、そこまで成果が出せるかが疑問。しかも、広告ってやつは、サイトデザインに大きく影響するもんだしな。
 顔を上げると、真理ちゃんとヨッシーは後片付けやら、カルテへの書き込みで忙しそう。
 時計を見れば、17時18分。
 とそこへ、真理ちゃんが“Hena”の袋を持ってやって来た。
「あら?? もう閉店??」
「ううん。まだですよぉ?」
「なんか急に静かになったね」
 煙草の紫煙が寝不足の目に染みた。殊更独りを感じたひとときだった。
「……あ、今日、お弁当買ってきたんだよ?」
 ふと、ヨッシーの声がした。
 顔を向けると、カウンターの奥でお弁当を2つ両手に掲げるヨッシーがいた。静かにカウンター上に並べられ、そしてそれをカウンターに寄しかかるように覗き込む格好の真理ちゃん。
「あ、松田くん、半分食べてけば?」
「へ?」
 まあ、僕もとりあえずそちらに歩み寄って行って覗いてみた。
「五穀米? あ、ダメ?」
 とのヨッシーの問いかけに、真理ちゃんは斜めに首を振っていた。
「食うねぇ~。これ全部一人で食うの??」
「え?」
「これで一人前??」
「まさか」
 ちょっとどっちか1つもらえると思ってしまった自分が恥ずかP。
「あぁ~、でもコンビニ弁当はちょっと」
「あ、コンビニじゃないよ、これ? 日清のお弁当だよ?」
「“ニッシン”て?」
「いや、日清は日清でしょ?」
「ああ、カップヌードルの?? あ、そうなの??」
「うん」
「いや、ああ、でも、やっぱりいいや」
「なんで?」
 そう怪訝そうに顔を向けたのは真理ちゃんだった。
「いや、固そうだし。歯に悪そうじゃん??」
「歯? え? なんで?」
「ああ、松田くん、親知らず抜いたんだって」
「あぁ~」
「それで慎重になってるんだって」
「そゆこと」
「だからだいじょうぶだって」
 真理ちゃん、かるくご立腹。
 まあ、たしかに女性からのお食事のお誘いなのに、断る男がどこにいる!? 言語道断、香港横断!! まったくもってけしからんばい。
「でもまあ、寝る時間もあるしってことで」
 しかしながら、お会計のとき、あっさりと真理ちゃんに“寝る時間あるじゃ~ん”と一蹴されたんだが。
 そのころにはもうすでに僕もジャンバーを着ていて、手袋もはめ、リュックをしょっていた。
「まあ、お二人でゆっくりと」
 とその言葉を受けてかなぜか、真理ちゃんがカウンターを離れて帰ろうとする僕のほうへと歩み寄ってきた。そして言った。
「……帰るの?」
 Oh!! なんと!!
 男の心の表面をコーティングした薄膜をいっぺんにひっぺがしてしまうほどの魔力を秘めたあの表情で!!
 真理小悪魔也。
「あ、いや、あ、うん。帰ります」
「そうなんだ」
 またしても!!
 かろうじてそう答えられたのは、天使より睡魔のほうが、その魅惑のオーラで俺様の脳髄を覆い尽くさんばかりだったからだ。
 そして俺様はうしろ髪と背毛をも引かれる思いでお店をあとにした。
「それじゃ、お先に失礼しまぁ~す」
 冬の夜風は、厚く着込んで隙間もないほどと思っていたそこに吹き込んできた。




 とまあ、そんな感じで、昨日、いや、もうおととい。
 しっかし長ぇ~……よくもまあ、こんなに書くもんだな、俺様。ホント日記だし。
 それでだ。
 なにが一番の出来事だったかというと、バイトに行く途中、いつの間にか落としていたケータイが車道と歩道の隙間で大破していたことだ。
 バイト先に着いてふと左のポケットに手を突っ込んだら、そこにはライターしかなかった。バイトも構わず探しに行くと、それはそこで木っ端ミジンコの10歩手前の状態で夜の大地にひれ伏していた。
 煙草も一緒に消えてたけども、それはもうケータイだけ見つかったので、なんのためらいもなく切り捨てた。
 まあ、問題なく使えるからいいけども、美しいフォルムには、小さな傷でもよく目立つもんだ。
 せっかく……

  • December 8, 2005 5:23 AM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

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  • December 5, 2005 6:01 PM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

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