「君子の交わりは淡き水の如し」と「腹六分」で満腹になる美輪さんと江原さん

 「君子の交わりは淡き水の如し」と美輪さんが言えば、江原さんは黙ってただうなずいた。
 「人との付き合いは腹六分」と美輪さんが回ごとに何度も何度も繰り返せば、「おっしゃる通りで、それが素晴らしいのは……」と江原さんがまたさらに付け加える。


 『オーラの泉』がこんだけ人気があって、美輪さんと江原さんがなんかもう、ものすごい教祖的な支持を得てるってのは、きっと、あのふた方の言葉が、だれしも多くの人の心のなかにあったり、眠ったりしてる理想論だからだろうと思うたわけ。
 で、なおかつ人が憧れを抱いたりする“すごい人”とか、ただ漠然と“強い人”とか“優しい人”とかいい感じのイメージにつながる姿というか姿勢というか、なんかそんな感じ。
 “共感できる”とか“あぁ~”とかなるっつーことは、同じものを自分のなかにも持ってるっつーことだからな。


 別に美輪さんが偉いわけでも、江原さんがすげぇわけでもなんでもねぇ。
 同じだけ自分もえれぇしすげぇ。


 なんかそんな結論が出てしまったいわゆる一つの今日もゴロゴロ。
 だから、宗教的な感覚もあるわけで、“教祖”なんて表現もあながち遠くない。


「人の世は、妬み・そねみ・ひがみで成り立ってるのよ」


 人のことを悪く言うのは簡単だ。
 それはただ単に、自分との違いを指摘すればいいだけの場合もあるんだからな。
 そして、人のいる場所そのものを悪いもんだとして見るのも簡単だ。
 あくまで自分が基準の世界なわけだし。


 でもそれって、デブが“自分はもともと太る体質だから”っつって、なにもせず最初から諦めてるのと同じ。
 もともと運動神経も悪いし、どんなに全力で走ったってビリなんだからって、最初から一生懸命なんて走らないのと一緒。


 そこはまさに俺様論と通じてる。
 人には諦めてもらうのが一番手っ取り早いし簡単だ。
 そしてなにより、自分が楽になれるのだな。
 人間の抱く感情のなかで、“諦め”とか“呆れ”っていうのがたぶん、もっとも人を安心させるんだろうなと思うわけだ。いったんそんな感情を抱いてしまえば、もうその人がその人にとっての驚異にはなり得ないような気がするわけ。


 でもそうじゃねぇ。
 きっと、自分の全速力すら知らないんだろうなと。


 と同時にそれは、自分はイケてるからそんなに手入れを必要とすら思ったことがないっていう人にも似てる。
 おごりだ。
 みんなも早く自分がいるところまで上がってこいとか、さも優しげに手を差し伸べてるような素振りを見せたりする。なぜここまで来れないんだ?
 むしろ、ハナっからどうせ来れないのはわかってるみたいな態度だったりな。


 もともとがダメなら、あとはもう上がるだけっていう考え方もあるだろうさ。
 それも一つのポジティブだ。
 でもそれで本当に上がるのかが疑問なのだよ。
 たぶん全速力で一生懸命走る前に、飛ぶことを夢見るようになるだろうし、スレンダーなスタイルに憧れを抱きつつ、それもまた自分らしさとかで丸くおさめるだろうなと思うわけ。


 まま、“上がる”っていう言葉もまたそれ、いわゆる一つのイメージを文字にした表記っていう感もあるわさ。
 もともと上がろうとすら思ってないとか、それを上がるとは思えないとかな。
 それを良さだと認める人もいるだろうし、受け入れる人も多いかもしらん。
 訊かれれば答える ─── それもありさ。
 ありがた迷惑なんて言葉もあるぐらいだ。


 けどよ?
 間違って憶えてる言葉の正しい言い方を自分は知ってる。
 正しくないっていうだけで、その言葉自体は通じる。
 でも訊かれてないから教えない。
 そこで教えたら、それは相手に恥をかかせることになんのか?
 違うんじゃねぇ~かなぁ~。


 たとえば花だ。
 美輪さんが言ってた。
「花は自分の命を私たちにくれてるのよ。だから美しいの。だから癒されるのよ」


 花はしゃべらねぇ。
 まま、なんかどっかの大学だかの実験で、植物は人間の言葉を理解するなんて結果が出たのはここでは関係ねぇ。話しかけたり「きれいだね」とか言葉をかけると、より美しい花になるとかも、今はいい。
 花がいきなり「なんか今日暑くね?」とかしゃべりださないよなっつーことだ。
 なので、結局言葉で表現する側にしたら、どうとでも解釈できる。


 もしかしたら、俺様たちのほうが花に少なからずの生命力をあげてるのかもしれねぇ。
 花の命はもっともっと短いかもしれん。
 でも人が水をあげたり、日当たりのよりいい場所を考えたり、自覚はないぐらいの少しだけ命を手渡ししてるから、枯れるまでの時間が少しでも長くなってるのかもしれねぇ。
 それはわからねぇ。
 ペットと一緒だ。すべては飼い主の解釈如何でしかない。


 でもそうやって“腹六分”っていう付き合い方をしていれば、「人のいい部分とだけ付き合っていける」って言ってた。
 それ以外は“見ざる・言わざる・聞かざる”でいるのが一番だと。
 人の成分のその四割は、“悪い部分”でできています。
 その半分が“優しさ”でできてるバファリンでなんとか治らねぇかな。


 ……しょうもねぇ。


 まあねまあね、人を足元からズックシ突き動かすのは嫉妬とか妬みだってのもわかるさ。
 女は嫉妬して初めて惚れた男に媚びるわけだし、男だってライバルが現れて妬みが生まれて初めて、惚れた女にアタックするわけだ。


 でもそれじゃあさ?
 結局は、人の悪い部分としか付き合ってないようにしか思えないのよ。
 いい部分とだけ付き合おうなんて、その人を丸ごと拒絶してるのとたいして変わらないじゃないかな。
 人のいい部分だけを見て、自分もいい部分だけを見せるってな。
 その上にお互いがいい人間であろうなんて成立しないんじゃないかな。
 人間が悪いなんて言ってねぇのかもしれないけど、世のなかが嫉妬やなんかで成り立ってんなら、それを作るのも人間だからな。


 人の悪い部分も認めて受け入れられて初めて、その人のいい部分を見れたんだって思ふ。
 いや、いい人間として付き合うってんなら、全部が全部いい部分と言えるかもしらん。いい部分を花とすれば、それが種だ。
 いい部分だけしか見ようとしない人間を、どうしていい人間なんて呼べようぞ。
 咲いた花を愛でる人をいい人間と呼ぶのか、花を咲かせられる人をいい人間と呼ぶのかだな。


 これぞまさに理想論で“それができりゃ苦労しねぇよ”っていう次元かもしれないけど、そんな些細な苦労もしねぇでいい人間になんてなれっこねぇべ。
 苦労人が立派だなんて言わねぇけど、きっと世のなかって、美輪さんが言ってたものを自分も感じられる「傷み」でできてんだよ。


 不安は悪いもんじゃねぇし、人間まだまだ捨てたもんじゃねぇ。
 もともとが悪いなんてこともねぇ。


 たしかに人間いいところばかりじゃ~ねぇさ。
 でもそれもまたいいところなじゃねぇの?


 まあ、本当にそういうメッセージなのかもしらん。
 そんな肩に力入れてる必要なんてないし、もっと楽に生きていこうよみたいなな。


 “淡き水の如し”な接し方ができりゃ、たしかにそれは立派かもしれねぇ。
 人から褒めてもらえるかもしれねぇし、認めてもらえるかもしれねぇ。もしかしたら憧れてもらえるかもしれねぇ。
 でもそれができねんだ。
 それじゃきっと、孤独なんだよ。


 立派じゃなくていい。
 だれも偉かねぇ。
 高いところにいる自分が手を差し伸べて、そこへ引っ張り上げるんでもねぇ。
 その手をつかんだ人と引き寄せ合うんだよ。


 俺様へのスピリチュアルメッセージは、天からなんて降ってこねぇ。
 自分の心の内からしか聞こえちゃこねぇよ。


『君子の交わりは淡きこと水の如し』

  • July 13, 2007 3:07 AM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

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