嗚呼、なんと……
ひさびさに≪らっきょ大サーカス≫へ……
さすがはお昼どき、混んでやがった。自転車をとめる。
お店に入る。お店中のテーブルがお客さんであふれていた。
とはいえ、見渡せばあいてるところもあるじゃないか。
僕は迷わずカウンターへ……
しっかし、≪らっきょ大サーカス≫は、ホント店員さんがよく変わる。
いつ行っても店員さんが違う。厨房のほうを見てみても、ウェイターさんがそっちに入ってるっていうわけでもない。前に行ったときにいた人がもういないのだよ……
「いらっしゃいませぇ~」
と、僕に水を持ってきてくれた人も知らない女性だった。
「あ、どうも」
「ご注文よろしいですか?」
「そうですねぇ~……あ、いや、ちょっと待ってください」
「はい。では、お決まりになりましたらお呼びください」
「はい」
男の人もみんなみんな知らない人……
しかぁ~~~~~~~し!!
“5”さん!!
“5”さんがいてくれるのだよ、ここには!!
よし、今日こそなんか話してやる。なんか話して仲良くなってやる。絶対話してやる。でも、なに話そう……
「こんにちわぁ~」
おぉ~~~~~~~~~~~~~~~~!!
目が合ったときに挨拶してくれたよ!!
挨拶された僕のほうが一瞬固まっちまって……
「……あ、こんにちわぁ」
さらぁ~~~~~~~に!!
しばらくいつもより5秒ぐらい長く見つめ合ってしまって……
いやぁ~、ホント、実はこの≪らっきょ大サーカス≫に初めて入ったときからなんかピキーンと相通ずるものがあるとは思ってたんだよねぇ~……薄々感じてはいたが、やっぱりきたか!!
う~ん……なんかここまでくると、かるぅ~くイカレてんな、俺様。
嗚呼、なんと……
≪らっきょ大サーカス≫へ……
来て良かった!!
注文を済ませ、待つ。
待つ。
ただ待つ。
ただひたすら待つ……
≪らっきょ大サーカス≫さんでは、1つ1つのスープが手作りらしく、スープカリーが出てくるまでに少々時間がかかる。
いや、煙草2本は吸える。それぐらい待つ。
が、今日はうしろの小上がりの席に子連れのご家族さんがいらっしゃったので、僕は吸わない。
ただ待っていた。メニューのトッピングを見たり、なにげに“5”さんを目で追ってみたり、店内を見まわしたり……
「すごいひさしぶりですよねぇ~」
「え?? あ、ああ、はい」
ぬぉ~~~~~~~~~~~~~~~~!!
憶えててくれたよ!!
しかも普通に話しかけてくれたぞよ!!
“5”さんが!! しかも、“5”さんから!!
ん~ん、ブラボー……
「いやいや、憶えててくれたんですか!! どうもありがとうございます。嬉しい限りでございます」
と僕は、カウンターに両手をついて頭を下げた。
アホです。
きっと両側にいたお客さんもこっちを見ていただろうけども、僕はもう“5”さんしか見ておらず……
まま、そんな“!!”つけるほど叫んだわけでもなく、そんな勢いはありません。心意気でございます。
そのとき“5”さんはなにやら言ってたっぽいんだけども、僕には聞こえていませんでした。かなり舞い上がっておったとさ。
“5”さんはカウンターの向こう、僕の目の前で食器を洗ってたんだか、なんかしてた。
“5”さんは、とにかくいつも忙しそう。副店長ぐらいのポジションにいるのか、1人だけやけに急がしそうにしてる。
そんななかで話しかけてくれたわけだ!!
ホント、嬉しい限りでございます。
とはいえ、当初あんだけ通ってれば目にもつくさな。
「あ、その腕の……」
「あ、これですか??」
「たしかボランティアのやつですよね?」
「あ、知ってるんですか??」
「うん、知ってる」
そのときタメ口になってしまったとでも思ったのか、一瞬“5”さんの表情が“ヤバい”っていう感じで歪んだ。
僕はそういうところを見逃さない。
「それ今、すごい人気ありますよね」
「そうなんですか?? へぇ~……」
「でもなんか白だけじゃなくて、青とか赤とか緑もあるんですよね? あ、緑はなかったかな?」
でもすぐに口調が変わった。嗚呼、そのままでも良かったのに……まあ、僕としてもタメ口で話すことはないんだけども。
そのへんの探りか??
タメ口で話せば今後につながるか?? そのまま仲良くなれるかもなんて考えてるのか??
乗ればよかった……
嗚呼、なんと自分に前向きな考え方なんでしょう、僕ったら……
「マジっすか?? “ホワイトバンド”っていうのに??」
「ええ、こないだテレビでやってるの見ましたし」
「マジっすか?? へぇ~、けっこう有名なんですね、これ」
「うん。でもなんか白が一番人気あって売れてるみたいですけど……ねえ、知ってる? それ」
と“5”さんは、なにやら隣でコーヒーメーカーに白い三角形の紙を入れていた青年に顔を向けた。
これ、ドリップ用紙っていうのか?? ということは、コーヒードリップしてたのか?? ドロップか??
まあいい。
日焼けして頭にバンドをつけて、なんか高校生ぐらいに見えた。
ちょっとジェラシー……なんつって。
「ああ、知ってますよ? WHITEBANDですよね?」
「おお、さすが」
僕にはなにが“さすが”なんだか意味わからず。
「たしか青とか赤も出るんですよね、それって?」
「え? もう出てるんじゃないの?」
「いや、たしかまだこれから出るって……そうでしたっけ? 違ったかな? なんかボランティアのやつですよね?」
「はい、ボランティア参加してます」
なぜかまた僕はカウンターに両手をついて頭を下げる。
「わたしも買おうかなぁ~……」
とまあ、そんなこんなで“5”さんと青年は各々の作業のために僕の前から去った。それからちょっと離れたそこで、二人はなにやらこの“WHITE BAND”についてしばらく楽しそうに談笑していた。
カリー到着。
運んできてくれたのは“5”さんだった。
本日は“野菜スープカリー”也。もちろん、なすとかぼちゃは抜いてもらった。
「……あ、じゃがいもトッピングしておきましたから」
ぬ?? その前になにかゴニョゴニョと言ってたみたいだけど、聞き取れなかった。実に悔しい。もしかしたら、そこが重要なのかもしれないわけだ。
「あ、え?? なんで?? あ、ホントだ……」
本当にじゃがいもが2つ入っていた。思わずじっくりと見つめてしまった。
「あ、これはタダですから」
「マジっすか?? いや、あ、でも、まあ、ありがとうございます。じゃがいもファンです」
なぜだ……いまだに不思議でならん。まあ、かぼちゃとなすを抜いてもらったから、それでってことなんだろう。
「いいえ」
俺様よ、前向きに。
「ではどうぞごゆっくり」
「いやぁ~、どうもです……では、いただきまっつぅ~ん」
まずはそのじゃがいもから……んまい。
やっぱし、旨い。美味い。巧い。
今日はチキンスープカリーじゃないから、トッピングでチキンを入れてもらった。
やっぱチキンだなぁ~……ここでもチキンスープカリーが一番うまいんじゃないかと思ふ。
俺様はチキンが大好きだ。ウメちゃんやなんかと≪ヴィクトリア≫に行っても、たいがい鶏肉しか食べなくなった。しかも、辛味噌チキンにスペシャルセットとか注文するものも決まってる。
それもまたどうかとは思う。でもやめられない。
牛とか豚とか、そういう肉だと、ほとんど残す。脂身、スジ、硬いとこ、やわらかすぎるところ、肉汁たっぷり滴ってるところ。
だから頼んでも仕方ないのだよ。
そのくせ鶏肉の場合は、ハイエナのように食べ尽くす。これはウメちゃんに聞いてもらえばわかる。
たぶん、かるく骨までかじってると思われる。もう食べれるところはないとハイエナにも笑ってもらえるだろう。
そんな感じで、鶏肉だとホント、ちょっとアブないぐらいまで食べる。
最近、「豚」とそれ単体で言われても、それをイメージできなくなった。どうしてもそういう「人間」が頭に浮かんでしまう。
さて、僕は気分も上々でムシャッてる。かるく頭を振っていたはずだ。
ごっつぁんだよ!!
嗚呼、懐かしい……昔『笑う犬』って番組のなかで、ホリケンさんが関取、名倉さんがその親ビンさん、ウッチャンがその同じアパートの住人の役、そんな3人が織り成すやりとりのコントだった。僕はあれが大好きだった。
ってことで、完食。
で、僕は水をちびちび飲んでいた。どこを見るわけでも、なにを考えるわけでもなく。
「あ、お冷……よろしいですか?」
“5”さんだ。
「あ、ああ、どうも」
僕はグラスを置いたもんか渡したもんか、思考も動きもウニョウニョしてた。“5”さんもそうらしかった。
結局カウンターに置いた。
すぐに水が増えた。僕はそのグラスを手に取ろうとした。
「あ、それ、どこで買ったんですか?」
「え?? ああ、これですか?? インターネットなんですよ。Yahooのなかにそのボランティアのところがあって」
「え、そうなんですか?」
“5”さん、ちょっと困惑ぎみ。
「なんか本屋さんとかいろんなところで売ってるって聞いたんですけど」
「ああ、そういうところでもなんか売ってるみたいですね」
「それ、ホントかわいいですよねぇ~」
「そうですかねぇ~」
「わたしも買おっかなぁ~」
“一緒に参加しますか??”とか言いそうになったけど、やめた。前のやり取りのときは“まだうちに1コあるんで、それで良ければ持ってきますよ”だったけど、それも言えず。
とまあ、なあなあでもなく、はっきりとでもなく、“5”さんは次のお冷を探して行ってしまった。
しかし、こういうなにげない仕事の人ってのは、本当に去り際がうまいなぁ~と感じる。
もっとも大事なこの去り際ってのが本当に苦手だ。とんと僕にはできない芸当だ。
こうしてまた僕はまた、今度は“5”さんが入れてくれた水をちびりちびりと飲みはじめた。
ここでレジに行ったら、今やってる仕事はあとまわしにしてレジに来てくれるだろうか??
やっぱり仕事は仕事だろうか??
なんで自分が手ぇあいてるときにレジに行かないんだろうとか思うんだろうか??
水を2口飲みこむまでに、いろんなことを考えた。
ホントこういうときってのは、いろんなことを考えて、いろんなことを試してみる。
こんなことしてどうなるかって言えば、それから先のいろんな場面で役に立つ。
うん、とにかくいろんな場面で……
最後にひと口水を飲んで、僕は、“5”さんがなにかを取るのか身を屈めたときに席を立った。
リュックを背負って、ウォークメンのイヤホンをはめて、椅子を戻してレジに向かった。
案の定、僕の伝票をその背後にあるステンレスの機材の横から取ったのは、新しい女性だった。僕に水を運んでくれたあの人だ。
「え~っと、それでは845円になります」
「はい……」
僕はズボンのケツポケットから財布を取り出した。
ん?? ぬ??
なすとかぼちゃ抜いてもらったからか??
いやいや、そんなはずはない。いくら抜いてもらったからとはいえ、なすとかぼちゃだけでそんなに高くつくはずがない。
じゃがいもは本当に“5”さんの単独行動だったのか??
援軍はいないのか??
これはテロか??
「……え??」
「あ、チキンカレーでしたよね」
ごまかすように女性店員さんはアハハと笑った。
でも、なんもごまかせてなかった。
「あ、はい……」
僕が頼んで食べたのは“野菜スープカリー”だったんだもん。こやつ、話せるな……
そしてなぜか僕も動揺していたらしい。
「あ、じゃあ1050円で」
「はい、え?」
「あ、意味わかりませんね。すいません」
僕は50円を引っ込めようとした。
「いえ、あの、1145円なので……」
「あ、ああ、すいません。じゃあ、1150円で」
「はい、1150円で。では5円のお返しになります」
「はい、どうもです」
「スタンプカードはお持ちですか?」
「はい、持っております。どうぞ」
「はい、ありがとうございます」
「いえいえ」
「ではまたのお越しをお待ちしておりますぅ」
最後は、なんか普通の店員さんのイントネーションじゃなかった。なにか、どこかがとても強調されていた。なんとなく違和感があった。
でもまた来たいと思う感じだった。
この新しい女性もおもしろそうな空気を身にまとっている……きっと話せる人だ。
もちろん、ちょっと離れたところから“5”さんの声も聞こえた。
聞きたい、あるいは聞こうと思えば、どんなに小さな声であっても、その声はなにかがどこかで増幅されてしっかりと聞き分けられるように聞こえてくるもんだ。
不思議なもんだ。
しかしィ~……
もうなんか“5”さんも、俺様がただ単に≪らっきょ大サーカス≫のスープカリーがうまいっていうだけで来てないっていうのは、なんとなくでも気づいてそうな雰囲気だ。
なんかやっぱハズいなぁ~……
というより、“5”さぁ~ん!!
読んでくれてますかぁ~??
嗚呼、なんとも衝撃的な発言なんでしょう……
つまりは、こういうことになってきてます。
いや、なってません。ごめんなさい。
いやはや、これでまた調子づいちゃって、僕自身が大サーカスしそうだな。
ホントに読んでくれてたらどうしよう……
『3秒に1人、子どもが貧困から死んでいます。食べ物がない、水が汚い、そんなことで。この状況を変えるには、お金ではなく、あなたの声が必要です。貧困をなくそう、という声を表すホワイトバンドを身につけてください。』 THE WHITEBAND PROJECT.
……ということで、今回≪らっきょ大サーカス≫でも話題を呼んだこの“WHITEBAND”へ。
Tシャツも買った寄付バカがここに1人。
やっぱほっとけねぇ~よなぁ~……
興味のある方、声を出せる方はどうぞ。
- August 30, 2005 10:02 PM
- [ ゲロ古 ]