今年の風邪、まとめ。

 今年の風邪は、案外たいしたことねぇ。
 インフルエンザなんつーのは結局、病院まで赴かねばわからんのだよ。
 ただただツレーからって全部が全部インフルエンザだなんて決めつけようもんなら、実家にいたころなんざ冬じゃなくてもインフルエンザなってたっちゅー話だ。


 まあな。
 発熱したのはひさびさだし、あそこまで鼻水が出たのも初々しく、非常に喉が痛む上に、咳やこんこだ。おまけに胆の量がハンパじゃねぇ。煙草のフィルターが胆でねっこり固まってしまうほどだ。ビビッた。
 それでもきっと、ただの風邪なんだろう。


 思えば俺様ったら、今までインフルエンザってやつにかかったことがねぇんじゃねぇか?
 風邪をひきやすかった分、常に風邪ひいてたようなもんだから、いつの間にか抗体もできまくって、風邪もそこまでひどくならなかったんじゃねぇか?
 だからめったに風邪ひかないやつが風邪をひいたら、要注意なんだな。
 君子危うきに近寄らずだ。そういうやつは隔離してほっとくのが一番。
 ホンマもんのインフルって、どんだけすげぇんだろう……ちょっと興味あるな。
 でもこういうこと言うとホントにかかるからやめとこう。
 映画でもよくありがちだけど、口にしたことは、いつかきっと現実として目の前に立ちはだかるもんだ。
 これってけっこう当たらずとも遠からずって気がしてならねぇ。経験からそう思う。


 本当に求め願うなら、それは口に出してきちんと声として言うべきなのだ。
 だれでもいいのだ。
 自分に言い聞かせるだけじゃダメ。
 ちゃんとだれかに伝えなきゃダメなのだ。
 でもそうすれば、いつかきっとそれは、現実となってる。


 俺様は“言霊”なんて信じねぇ。
 もしそんなもんが現実のなかで超然と存在してようが、そんなもんは霊じゃねぇ。
 れっきとした力だな。
 言葉で動かせねぇもんは、そのだいたいにおいてなにをもってしても動かせねぇ。
 人間も言葉で簡単に操れる。っつーか、言葉一つだ。言い方ってだけでも全然違う。
 言葉こそが“力”だ。
 お金にせよ愛にせよ、そこには必ず言葉があるっつーこったな。言葉なしには愛もお金も結局無力。


 なんだかもう世のなかが豊かになりすぎて、“目に見えないもの”に重きを置くって方向に傾きすぎてる。
 つまり、“本当に大切なものは、目に見えない”なんていうイメージが完成されつつある。
 愛にしろ信頼にしろ、友情にしろ優しさにしろ、なんにしてもそうだ。


 なんでだ?
 単に見ようとしてないだけなんじゃないか? むしろ“そういうものは見ちゃいけない”みたいな感じじゃないのか?


 なぜ愛に形があっちゃいけないの?
 家族はただの入れ物だったり器っていうだけで、そこにある絆や優しさ、思いやりのほうが大事なのか?
 いやいや、家族は家族だ。
 パパもママも子供も孫も大事だろう。じっちゃもばっちゃも、姉ちゃんも弟もいとこもはとこも、みんなみんなホントは大好きで大好きで仕方ないんだろ?
 家族も親友たちも今の昔の恋人たちも、みんなみんな愛してるだろう。愛して愛して愛してるだろう。
 たしかにそこにある愛や優しさは大事だ。
 でもやっぱりさ。
 たまに、ホントたまーに届く短い手紙が涙が出るほど嬉しかったり、ホントに腹へってるとき一緒にメシ食いに行っておごってくれたり、時には想い出だけでも生きていけそうな気がしてみたりもするだろう。


 目に見えないものの大切さに気づけるのは、やっぱりこれ、なかなかどうして見えるものがあってこそなんだよな。
 そうじゃねぇか?
 手紙をくれるのは、そこに愛があるからこそだけど、本当に嬉しいのは手紙だ。そうやっていつもなんだかんだで気にとめてくれてる家族っていう存在がいるからだ。
 目に見えないものに頼りすぎると、本当に目に見えるものの強さに触れられなくなっちまうんだよ。いや、触れたときにそれを素直に受け入れられなくなっちまうんだな。
 見えないもの、触れられないものに対して強くなれるほど、人間なんて強くなれねぇ。
 強さは、ただ弱さの反対なんて簡単なもんじゃねぇと思うのよ。
 見えるもの、見えてたものが見えないものに変わっていくさまを最後まで見届けることができるかっつーこと。


 愛する人の最期をきちんと見守れるかって話。
 本当の愛って、本当の強さっておれ、そう思う。


 目に見えるものの代わりなんて、たしかにいくらでもある。
 ものならまた新しいのを買えばいいし、恋人なんてまた別の恋をすればいいだけのことだ。答えもベストも一つじゃない。ただそのときの自分が知らないってだけなんだな。
 もしかしたらその新しく買ったものは前よりいいものかもしれないし、恋人もまた、もっともっといい恋をしてに最高の恋人と胸を張って言えるような人にめぐり逢えるのかもしれない。
 いつも新品で、いつも中古だ。
 答えもベストも繰り返しながら、その繰り返しのなかでそのときの答えであり、ベストになり得るってだけの話。
 でも、その代わりも結局は目に見えるものでしか補えない。そしてまた見えないものの大切さに気づけるようになる。想い出までが、目に見える触れられるものになっちまうわけだ。
 すがれるのは、いつもやっぱり目に見えるものだったり、触れられるもの、自分も実感できるものでしかない。


 自分が愛せる人、自分の大切な人、その全部が命なんだ。力なんだ。
 それは絶対目に見えんだよ。
 心なんて愛せねぇ。
 どんなに心のなかで愛や優しさや思いやりやその想いを叫んでくれたとしても、そんなもんじゃ動かねぇ。
 そんなもんは結局自分自身が愛しいだけなんだ。
 ちょっと喉が渇いたかなってときに缶ジュース1本買ってくれたり、ちょっと早足になってしまったときにうしろから袖を引っ張ってきたり、友達や仕事の愚痴を言ってくれたり、本気で怒ってくれたり、かけてくれた言葉は文字に置き換えて刻まれるんだ。
 やっぱそういうことに愛しさや大切さを感じんだ。


 そういう人たちを残して死ぬなんてできねぇ。
 残る人のほうがきっとつれぇ。
 最期はおれの顔を見て死ねばいい。この世の最後の景色は、おれにすればいい。
 それでもおれが笑わしてやる。
 そして最後に言ってやる。
「おれはだいじょうぶ。つらくねぇから」


 人を食らわば死までだ。

  • December 2, 2007 7:03 AM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

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