さすがに自分でもアホかと思った1日。
自転車で≪平岡ジャスコ≫まで行く。
たぶんその無謀さというか、チャレンジャーというのは、わかる人にはわかる距離……
それなりの厚着ではあったものの、さすがに汗かいた。
いっつもリュックをしょってるとはいえ、背中にじんわりどころじゃない。けっこう上に着てたやつが変色するぐらいだったと思う。
そのまま楽器屋さんへ突入。
うちの近所には楽器屋さんがない。
帰宅したとき、ウメちゃんはまた車を磨いていた。
「おう、お疲れ」
「いやぁ~、さすがに疲れた」
「どこ行ってた?」
「≪ジャスコ≫」
「マジで? そりゃ疲れるわ」
「遠すぎ」
「で? 買ったものは?」
「いや? なんも? なんも買ってない」
笑いながら見上げた空が、いつもより高く感じた。
どうやらホンット惚れっぽいらしい……
多情というわけじゃ~ないんだけども、なんかすぐに熱する。すぐ煮え立つ。
ちょっとかわいい人に、ちょっと優しくしてもらっただけで、その人が頭から離れなくなっちゃうらしい。
そして、どうしてもかわいい人を探してしまう。
男性の店員さんには、まず話しかけない。
そして、まず買わない。
どんなに仲良くなっても、どうしても男性の店員さんだとダメなんだなぁ~……
というより、仲良くなって普通に友達みたいな意識になってしまうようだ。不思議なもんだ。
今回は、ちょっとカバーについて質問してみたわけだ。で、ふた言か三言、四言葉か五言ぐらい言葉を交わした。
それだけだ。
まあ、それも仕事のうちってのはわかってはいるんだけど、どうしても女性店員さんに微笑みかけられると弱い。
やっぱしかわいい人を選んでしまうわけで、そんな人に笑みを向けてもらっちゃうわけで……ダメなんだな。
でもって、もうちょっと話したいがために、話を伸ばそうと、なんだかんだと質問したりしてみる。
急ぎのものでも、多少時間がかかったっていい感じで話を進めてみる。
取り寄せと言われようとも構わない。
「それじゃあ、メーカーさんに問い合わせてみますね」
「あ、わざわざすみません。よろしくお願いします」
なんかちょっと、こんなかわいい人が僕のために電話までしてもらったり、裏の埃っぽそうな倉庫にまで行ってもらっちゃったり……
申し訳ないようで、そんな姿がちょっと嬉しくなってしまうわけだ。
それから仲良しっぽい感じの男性店員さんと2時間ほど独占状態で話した。
その店員さんは「これが仕事ですから」と気遣ってくれたんだけど、やっぱしけっこうヤな客だと自分でも思う。
そのあとで今度は、またお姉さんに話しかけに行ったあたり、さらに感じ悪い。
すぐにその男性店員さんに悪いかなぁ~と、思ったことを口にしてしまったわけで……
今度はそのお姉さんに感じが悪い。そうとう感じが悪い。
「いえいえ、そんな……ぜひお願いします」
「いえ、いいですよ」
「いえ、ぜひ!!」
そうお願いしてみてもお姉さんは聞いちゃくれない。ちょっと怒った顔もまたかわいかった。
それでその男性店員さんと代わるということになってしまい、もうニッチもサッチもいかなくなった。
今知ったんだけども、この“ニッチもサッチも”って、漢字にすると“二進も三進も”と書くらしい。
結局、男性店員さんといろいろ話した末、話しただけで帰ってきた。
で、この翌日に、ウメちゃんとまた行ったわけだ。
正確には、この日に1回帰ってからまた行ったんだけども……
行ってすぐ、レジにいたお姉さんが気づいてくれた。
「あ、どうも。また来ちゃいました」
お姉さんは、また微笑んでくれた。
それからまた、同じ男性店員さんとさんざんしゃべった。ああでもないこうでもない。ホント譲れない我を持ってると、こういうときホントに迷惑かける。
学んだ。
で、そのまま帰ればいいものを、いいだけしゃべってもらっておきながら、最後にお姉さんをわざわざ呼んでもらった。
「あのお姉さんいます??」
「どうしたんですか? なんかありました?」
「いや……あの、ファンなんです」
「ああ、ホントですか?」
「ええ。本当です。もう今日の朝来たときから」
チラッとお姉さんを探してしまった。
「もしかして、奥さんがあのお姉さんとかじゃないですよね?? だったらおとなしく身を、引っ込みますけど」
「いえ、違いますよ。じゃなかったら、引っ込まないんですか?」
「ええ。そう簡単には引っ込みませんよ。じゃあ、オフィス・ラヴとかあったりしますか?」
「いえ、まったくないですねぇ~。じゃあ、ちょっと呼んできますね?」
「ああ、よろしくお願いいたします」
男性店員さんがレジのほうへ引っ込んだ。
メッチャ元気に、そして若干駆け足でお姉さんがこちらにやってきた。
その姿にまたやられた……かわいすぎだよ、お姉さん。
「あ、2度目のご来店、ありがとうございますぅ~」
「いえいえ、こちらこそ……」
「どうしました?」
「あのですねぇ~」
「はい?」
「ちょっと握手してください」
「えぇ? なんでですか?」
やっぱりそこは女性ですな。一瞬手を引っ込めて、怪訝そうな表情を覗かせた。
と言われても、うまい言い訳も思いつかず……
「あ、はい」
お姉さんは握手してくれた。
でもそのあとすぐその男性店員さんを“呼んできます”と、また駆けて行った。
「いや、もういいです」
そんな言葉を送ってみるも、行ってしまった。
明らかな拒絶反応と受け取った。
「……見込みなし」
ヤッベ、なんかストーカー体質かも……ちょっとそんな自分が心配になった瞬間だった。
「いやぁ~、“Gibson”もいいねぇ~」
「アホか。高ぇ」
「あ、じゃあ、これでいいよ。なかなかお手ごろだし」
上の段にかかってるギターをかるくその手で引き出した。
「ミニギターもいいんだけどさ、ちょっと一風変わったやつもいいかなと」
「ああ、まあね。ほかのやつよりはね」
と、そんな話をしたあとの帰り際にウメちゃんがポツリと教えてくれた。
「薬指に指輪してたけど」
「えっ、マジで?? 気づかなかった……ショック」
そこにあった椅子っぽくない椅子に座り込んだ。
「あぁ~、なんかひさびさに失恋した感じ」
「展開、早っ!」
「いやぁ~、なんかもう立ちなおれない感じ」
「いや、でも、わかんないじゃん。なんかゴッツい感じで、そういう指輪じゃないっぽかったような……」
「いやぁ~、でもわざわざ薬指にはしないだろう」
うしろ髪引かれるようにしばし振り返ってみる。
ほかにもまだ9本もあいてる指があるのに、わざわざ薬指にするとは、どうしても考えにくい。
「まあね。でもそういうの気にしない人もいるからねぇ~」
もう1度振り返ってみる。
「見えねぇ~」
「確認してみる?」
「いや……まあいいさ」
なんとかそこで踏みとどまるのがやっとだった。
それを超えると、完全にストーカーと変わりない。
「あ、やっぱしてる」
「……」
「終わったな」
お姉さんの指には指輪があった。たしかにゴツかった。でも、そうとも見えなくもなかった。
「あ、どうも……」
「あ、いらっしゃいませぇ」
お姉さんが微笑む。
わざわざ立ち位置を微調整して、お姉さんのまん前から少しズレたところを選んだ甲斐があった。まん前だとさすがに気持ち悪い。そこでも充分気持ち悪いけど……昨日も来てたんだし。
もうほかを見てまわろうと、昨日と同じレジの裏の棚にまわった。ああでもない、こうでもないと場所が同じなら話題も同じだった。
「あれ??」
ふと顔を上げた。
「してなくない??」
「あ……」
たしかにしてなかった。間違うはずもない。
ちょっと浮かれた。
「あれ??」
「あれ??」
「してる」
次に顔を上げたときには、またそこにあった。
なんだかまごついてしまった。
「確認してみる?」
「見えねぇ」
電話応対で手には白い手袋をはめていた。
「ちょっとまわりこんでみる?」
「おうよ」
昨日は踏みとどまった一線を超え、ストーカーになり果てた瞬間だった。
お姉さんは電話を終え、応対していたお客さんもそこから消えたあと、手袋を取った。応対机の上、その手元にはよく見る黒い箱に入ったキンキンに光り輝く金管楽器、サックスがあった。
「あ、してない……」
「おっ。ちょっと復活じゃない?」
「いやぁ~、どうかなぁ」
そんなことは言いつつも、顔はしごく緩んでいたはずだ。
またレジの裏の棚にまわって話し込んだ。さっきまでは、ああでもない、こうでもないだったのが、きっと“あれもいい、これもいい”になっていたことだろう。
人間ってのは欲張りだ。
今日はとっても忙しそうだった。店員さんのだれもが駆け足ぎみだった。
しばらくしてやっとひと段落したらしく、また昨日と同じ男性店員さんが気づいてやってきた。
「あ、どうもどうも」
そしてまた昨日と同じ話を繰り返す。
レジのすぐ裏だ。
店を出るとき、話した店員さん全員に挨拶してまわった。
お姉さんは見当たらなかった。
「探す?」
「いや、いいや」
そう答えてお店を出た。
それからすぐスロットをやるために、もう1度エスカレーターで下を目指していた。ゆっくりとそこへ向かう。
「あ、やっぱりしてくわ」
その階で降りて、お店のなかに入る。
店内にぐるりと首をめぐらす。ちょっと背伸びもしていた。
「あれぇ~」
たぶん声にだしてただろう。
「あの、あのお姉さんいませんか??」
近くにいた男性店員さんに聞いてみた。
「え?」
「いや、あの、お姉さんいませんか?」
そう訊いてる間にも店内を見渡すことはやめなかった。
「お姉さんですか?」
たぶん“あのお姉さん”で通じるはずもない。
でも、探すってことは“今ここにいない人”ということで察したんじゃないか。
「……あ、メシ行っちゃいました」
その瞬間、僕のひと夏の恋は、降りやまない雨とともに土に還った。
その帰路、以前からずっと知り合いの店員さんがいるvodafoneショップに赴いた。ウメちゃんとともに、もうかれこれ6年ぐらいの付き合いになるらしい。
その人もすこぶるかわいい。最初見たときはビビッたもんだ。
年に関しては「それ、禁句だよぉ~」と言ってはいたものの、もう31歳になると聞いたけども、まったく老けない。ビックリするぐらい若く見える。
「ホント老けないねぇ~」
「またまたぁ~」
「いや、マジで」
「そう?」
「うん。なんかどっか老けた??」
「うん、老けたよ」
「あらまぁ~……でも全然見えないわ」
「そうかなぁ~。でも全然変わんないよねぇ~。すっごいひさびさだけど、最初会ったときと全然変わってない感じ」
「やった!! ほらな??」
ウメちゃんを向く。
「やっぱ店長がおかしいんだって」
「どうしたの?」
「いやぁ~、こないださぁ~。店長に“老けたねぇ~”って言われたんだよねぇ~」
「えぇ~、ホントぉ~?」
とまあ、そんな感じでひさびさの再会に花を咲かせた。
「あ、そういえば、会社の意向で禁煙になったんだよねぇ~、店内全部」
「はぁ~!? マジで??」
「うん」
「ほんじゃあ、どこで吸うのさ」
「だから吸えないの」
「えぇ~!? なにしてんのぉ~」
「いや、なんもしてないんだけどね」
それでも、お店に足を運んだ際、いつものごとくコーヒー飲みつつしばらく居座った。
やっぱ、そういうモノを売ったりする販売店とかショップだと、店員さんのかわいさってのは、かなり重要だと思う。
そのお目当ての店員さんに会いたいがためにお店に行くっていう人もいるんじゃないか??
たぶん企業のなかには、受付さんとかはそれも重要な要素として採用してるところもあるんじゃないかと思われる。
で、行ったついでになんか買ってみたり、ケータイの暗証番号とか変更してみたり……
ケータイ屋さんに行った際は、機種変更とかはせずとも、ぜひ暗証番号とかお金のかからないサービスの変更をしよう!!
店員さんはきっと隠れて喜んでくれているはずさ!!
まあ接客態度とか、その他うんぬんかんぬんとか、行く人によっていろいろあるかもしれないけど、それは二の次。
もしその商品で騙されたとしても、それでもいっかなぁ~とか思ってしまう。さらには、“騙されたぁ~”ってまた話に行く口実にできる。
……あぁ、なんと前向きなんでしょう。
惚れっぽいにもほどがある。
でも、こんな生き方も悪くないと自分では思ってみたりする。
ただ、そのお店の携帯電話を2本とも“友達割引”として登録してる僕は、ちょっと切ないかもしれまいに。
- July 9, 2005 2:39 AM
- [ ゲロ古 ]