- Soupcurry -

 本日、人生2度目のスープカリーを食した。
 いやはや、ここは実にうまかったでございます。


 そこは≪ショルバ~≫という、≪平岡ジャスコ≫の右側の正面にこぢんまりと建っている。
 店の駐車場に車を停めるまで、店の名前を“ジョビジョバ~”だと思い込んでいた。
 その名前もさることながら、昔は毎週のように≪平岡ジャスコ≫へ通っていただけに、とても恥ずかしい。なんとなく掲げられている絵柄からそう読んでいたらしい。
 この日は、中古車のなんかやってたせいかたいへんの混雑……≪ジャスコ≫が。
 お店の前の道も、≪ジャスコ≫から出てくる車でカラフルな濁流のようだった。
 まあ、今はそんなの関係ない。店に入った。
 店員のお兄さんが店の奥からやってきた。ヒゲもニット帽も全部が黒かった。
 注文は“スペシャル”を2つ。
 激辛、ピリ辛、スパイシー、マイルド。
 迷わない。ためらわない。臆さない。
「マイルドで」
 辛い料理は、選べるなかで一番甘いの。
 というわけで、さらなる挑戦。
「甘口でお願いします」
「え?」
 そんなのはありません。
 でも“マイルド”とはいえ、それは“マイルドに辛い”というわけなので、それじゃ困る。
「じゃあ、辛味なしでいいですか?」
「はい、それでお願いします」


 雨はいっこうに降りやまない。
 言葉もなく眺めていた。
 窓の外では、地面にできた無数の透明のシンバルを打ちつづけている。自然のかもしだすノイズは、ただただ心地よさそうに映った。
 が、それは、人間の打ち鳴らす音楽によってかき消され、聴こえはしない。


 スープカリー!!
「おかわり自由ですから」
 ヒゲのお兄さんはそう付け加えて去っていった。
「タダ??」
「じゃない?」
「おかわり自由って、米タダ??」
「いいねぇ~」
 やっぱり野菜はとてもデカい。
 なすびが……なすびは……なすびも……なすびと……なすびもデカい。
 しかもちょっとアヤをつけて、しなびたタコのような形に切られていた。
 すかさずウメちゃんの皿に移植。
「じゃあ、ニンジンとバクるか」
「おうよ」
 これまたデッケぇ~ニンジンが俺様の皿へ。
「なすびウメぇ~べや」
「いや」
 カリーを飲む。
 ニンジンを食う。
「うめぇ~な」
「うん」
「中央区にあるようなとこよりうめぇ~な」
 おれは食った。
 ウメちゃんも食った。
 うん、食った。
 おれたちは食った。
 おれたちはカレーを食った。
 そう、おれたちは……カレーを。
 最近、左側の詰め物が取れたっぽいので、右側の奥歯でがむしゃらに食った。
 ウメちゃんは今、歯医者に通っているらしい。
 でも僕はそこに行かない。
 それはなぜなら、遠いからだ。自転車では遠すぎる。それよりもっと遠いところなら行けるんだけど、中途半端に遠すぎる。行く気になれない。


 ウメちゃん、かなりヒートアップ。
「汗かきすぎ」
 その顔に目を上げたとき、ひとすじの汗が右目の上から頬を伝って流れる。
「ムフォ」
 ティッシュで拭きまくるウメちゃん。
 雨はまだまだ降りやまない。
「昨日からおれ、辛いもんばっかり食ってんな」
「あぁ~、ペペロンだからね。モロ出し唐辛子」
「ちょっと辛味なしって食ってみてぇ~」
「どうぞ??」
「……フォフォ」
「食べる??」
「いらね」
「あのぉ~、すいませぇ~ん」
「……」
「すいませぇ~ん」
「……」
「すいまっせぇ~ん!!」
「はい」
 お兄さんがやってきた。
「はい」
「ライスおかわりください」
「はい。え~っと……2つで」
「1つで」
「はい」
 ウメちゃんのあいた皿を持って去ろうとするお兄さん。
「あ、あの」
「はい?」
 振り返ってこちらに向きなおるお兄さん。ちょっとかるく片足でスピンターンをした模様。
「これってどうやって食べるのが正解なんでしょうかねぇ~」
 疑問形とも独り言ともとれるウメちゃんの質問。
「あぁ~、それはホントに人それぞれですねぇ~。ライスを取ってそれをひたす方もいれば、先にお肉を食べてライスを食べる方もいらっしゃいますし……全部入れて食べる方もいらっしゃいますし。ホント人それぞれですね」
 最後の“全部入れて”って付け加えるのに一瞬の間があったのは、僕の皿に浮く米粒を見たんだと思ふ。
 でも僕は、全部を入れたわけじゃない。せめての上品さをかもしだすために、小出しだ。
「なるほど、そうですか」
「どうも」
「いえいえ、ごゆっくり」
 お辞儀の流れのまま振り返ったお兄さん。そのままキッチンの奥へと引っ込んだ。
「やっぱ口のなかでミックスするのがベストなのかな」
 実践するウメちゃん。
「なるほどね。そういう食べ方もあったわけだ」
「ん?」
「先にスプーンで米すくってからひたせばいいんだ」
「うん。なんで?」
「さっき先にカレーすくって米とろうとしたらこぼした」
 “アハハッ”とかるく笑うウメちゃん。
「しかし……」
 カレーをひと口。
「……辛味なしでも辛いと感じるおれって、ダメ人間??」
「うん、ダメ人間」


 完食。
 ウメちゃん、マッスルヒート。ラメのように光ってた。
 “辛味なし”といえど、絶対入れてやがった。辛かった。
 でもうまかった。
 レジスターへ歩み寄った。
 お兄さんがキッチンから出てきた。
「ありがとうございます」
「いえいえ、こちらこそ」
「ごちそうさまでした」
「辛さとかだいじょぶでした?」
「いや、辛かったです」
 お兄さんが“ナッハ”と笑った。
「すいません。勉強しときます」
「いや、でもおいしかったです」
 お食事料金を払って店を出た。
 雨脚は気持ち優しくなっていた。


 それから≪平岡ジャスコ≫に行って、“イオン賞”が当たれば液晶テレビとかいうスロットくじをやった。
 8回やって当たりはゼロ。
 ウメちゃんは洗剤1つ。
 半分ずっこで買った二人掛けソファは、16日の午前に届くらしい。


 家に到着して少し経ったころには、雨はすでにやみかけていた。

  • July 10, 2005 11:24 PM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

ランキング参加中なので、これ乳首。

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