- Manami Konishi -

 ふと目が覚めてベッドのなかで上体を起こして振り返ると、そこには小西真奈美さんが……
 ドアとベッドのわずかな隙間にちょこんと座って、壁のどこかの一点でその視線が止まっていた。
 この季節にふさわしい茶色とベージュと、かぼちゃ色の布をつぎはぎしたような可愛らしいコートを羽織り、それと似たような色使いでいく重にも巻かれたマフラーのなかで下唇のわずかが隠れていた。
「おいで」
 僕は、それがごくごくあたり前であるかのように、真奈美さんを呼んだ。
 彼女もそれが自然で、すごく嬉しそうに微笑んだ。
 すっと静かに立ち上がると、僕が差しだした手と真奈美さんの伸ばした手が、どちらからともなくそれをつないだ。
 ずっとベッドで寝ていた僕とは違って、かすかに鼻の頭を赤くする彼女の指先が、僕の掌のなかを滑るようにぬくもりを伝えた。
 ぬくもりは、あたたかさばかりじゃない。僕だけじゃ感じれないもの。一人じゃないということ。
 僕がつないでいる手で真奈美さんを引き寄せる。
 たった2、3歩で届く距離。それでいてもっとも遠く感じる距離。
 もう一方の手で開いた布団の隙間が寒くなった。
 でも、その隙間を真奈美さんが埋めた。熱いぐらいの布団のなかで、真奈美さんのコートだけがひんやりとした。
 すべて着たままだったから、滑るようには入れなくて、胸から上がまだ布団の外に出ていた。
 真奈美さんがふと視線をはずしてつぶやいた。
「わたし、ずっと好きだったんだよ?」
 僕は抱きしめた。そして、抱き寄せた。
「そんなの、おれだってずっと大好きだったんだよ?? 知らなかった??」
「えぇ~、ホントぉ~!?」
 とすぐに、真奈美さんの体が全部、僕の腕のなかにおさまった。
 向き合って、また抱き寄せた。
 小西真奈美さんの顔が、目の前にあった。鼻の先が触れ合いそうなほど、見つめ合う目と目の焦点も合わないほどに。
 やわらかな静寂のなかで、真奈美さんがもう一度確かめるようにつぶやいた。
「あぁ~、本物だぁ~……」
 芸能人さんから“本物”と言われる一般庶民。
 そんなの、こちらこそだ。
「……うん、ホントに本物なんだね」
 そのまま僕らは目を閉じた。
 キスをした。
 なんと柔らかい唇なんでしょう。まるで雪のようにきらきらと輝いていた唇が、今はゆったりと流れる水面のようだった。
 雰囲気と本能と成り行きにまぎれて、僕は真奈美さんの乳に触れていた。乳首に僕の指先がつまづいた。
 テレビで見たように、真奈美さんの胸はそんなに大きくはなかった。でも、すごく心地よかった。
 なんでだろう……あたたかさを感じた。
 そしてやがてお互いの唇が、まるで氷解のような静けさと時の流れのなかで離れた。
 ふとまぶたを上げると、真奈美さんが微笑んでいた。
 もう一度、彼女に口づけをした。
 目を開けると、また微笑んでいた。
 僕がしばらくその笑みを眺めていると、真奈美さんは、突然なにかを思い出したように言った。
「あ、そういえば、わたしが住んでるところ、川下だって知ってた?」
 は?? 川下??
「マジで!? それは知りませんでした。メッチャ近いじゃん。ってか近すぎ」
「でしょ~?」
「で、どのへんよ。≪カルビ大将≫とかなんか車屋さんとか、どっかあのへん??」
「ん~……ちょっと、違うかな」
 そう言って、真奈美さんの住んでる場所を教えてくれた。
「またまたぁ~。んなわけないじゃん。それじゃあ近すぎだって」
「ううん。だってホントだもん」
「マジっすか」
「うん。大マジ」
 笑った。
 可愛い。可愛すぎる。一緒にいて安らぎすぎる。首を横に振るときも、首を縦に振るときも、背伸びしてるのにできていない少女のような愛らしさだよ。ダメだ、こりゃ……
 そして、なんとなく訪れた沈黙。
 僕の我慢も限界だった。
 オぉ~トコならぁ~……
「あのさ」
「?」
「おれとね??」
「うん」
「……付き合ってください」
 語末だけが強気であり弱気だった。
 しばらく見つめられた。そのあとキスされた。
 ドラマならここで、その主題歌のサビがドカーンと入るところだろうさ。個人的には、Oneの『たった一つの約束』あたりがいいかなと……
 僕は彼女の開いていないまぶたを見て、自分も閉じた。
 ああ、なんと衝撃的。そして衝動的。
 今思えば、それが答えだったんだと思う。
 いや違う。
 やがて僕が目を開けたとき、彼女が微笑んでくれていたことだ。そして、変わらずそこに彼女がいたこと。
 そう、今まではただ眺めているしかできなかったあの笑顔で……
 それできっと安心したんだろう。僕はそのままいつの間にか眠ってしまっていた。
 僕は、彼女を抱きしめたままの格好で目を覚ましたんだから。






 ……いやぁ~、なんとリアルな夢を見たんでしょう。
 超超リアル、超リアル。心の底から、So real.
 実感もありました。感触はまだあります。奥行きも空気感も、影もぬくもりもありました。
 でもただ、ただ、“におい”がなかった。
 認識、識別、理解、回想、照合などなど、認知するために最重要と言ってもいいぐらいの“におい”を感じることができなかった。
 その人をその人と、もっとも感じることができる要素……“におい”。
 それが……それを感じられなかった。
 ほかのすべては、だいたい情報として頭のなかにあるからなんだろうな、きっと。
 姿も声もある。乳首とか乳は、たぶん今までの記憶のなかで補ったんだろう。テレビで見た小西さんのそれに近いものを記憶である程度作り上げて、さらに自分のイメージで微調整するわけだ。
 あとはもう、いつもの自分の部屋だし、頭のなかで計算して影とか照度とかはたたき出したんだろう。




 まあ、ここんとこずっと『HOTMAN』っていうドラマの再放送がかかってて、ほぼ毎日欠かさず観てたからなぁ~……その影響もあんのかな。
 それにしても俺様の好きな顔の感じの偏りったらないな。
 やっぱ“好きなタイプ”ってあんだな。まあ、厳密に言えば“好きな顔のタイプ”なんだろうけども。
 なんか昔っからそうなんだけど、いや、きっとほとんどの男性諸氏もそうだと思うんだが、ふと夢に出てきた女の人のことを好きになってしまう。
 変に意識しちゃうんだな。
 で、これがHな夢ならなおさらだ。
 ポッと現れて、スーッといつの間にか消えていく感じ。
 これがたぶん、男の恋心を一番くすぐる女性の存在感なんじゃないかと思ふ。
 しかも、最初にドカンと強烈なインパクトというか、“合い”感を男に残してたら、きみに惚れること間違いなし。それでなおかつ、気のある素振りでも交えてようものなら、ずっと忘れられない。気になってしょうがない。
 絶対、きみに惚れちゃいます!!
 これは断言できると思う。
 極端なこと言えば、美人の幽霊さんなら一目惚れって感じか。
 フェイドアウトってのがミソだな。
 ……まったく、不思議なもんだ。




 夢を見る人は、その夢が具体的であればあるほど淋しいとは言ったもんだけど、やっぱいい夢見た日は気分がいいなぁ~。
 でも、そんな時間の流れが現実になる日はいつになることやら……
 目覚めても夢のようなぬくもりを探し求めてしまう愛。
 夢はぬくもり。
 ぬくもりは目覚めさえ阻もうとするもの。
 そんな夢追い人は今日も寝不足……
 俺様ったら、根っからのドリーマーらしい。
 小西真奈美さん、あなたのその笑顔は、人を幸せなぬくもりのなかへと案内しています。
 ありがとう。

  • November 24, 2005 4:44 AM
  • 松田拓弥
  • [ ゲロ古 ]

ランキング参加中なので、これ乳首。

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