Bree-Bree

 バイトで、お帰り前の掃除のとき、言われた。

 私は掃除をしています。学校で使っていたあの青いプラスチックに木の柄がついた回転ぼうきと言った気のするやつと、パクパクと口の開閉するチリトリを持って。そう、その2つを巧みに使いながら、掃除をしていた。
 椅子を引いては戻して、ゴミ箱をどけ、また戻し、自分はうしろに進みながら。
 そんな折、カツーンと椅子のキャスターにほうきのプラスチックがぶつかった。
「あっ」
 あっ、じゃねぇだろう。気づかないはずがない。気づいてないはずもない。近づいてくるのチラチラと横目で気にしてたくせに。
「もしかして、わたし邪魔?」
 その女が座ってこちらを見上げていた。
「ああ……見てわかりませんか?」
 たぶんこのとき1回目。
「あっ、ごめんなさい」
 その女は、あたかも、いかにも自分が悪かったとでも言うように慌てて立ち上がった。チラチラ見んな。
「ああ、いいですよ、別に」
 その女がピタリと止まった。椅子の背もたれに片手を乗せたままだった。その指輪が安っぽい。
「どける気ないなら掃除しないだけですから」
 そして、2回目。
 吐息のついでみたいに言い残して、私はその女の肩をかわすようにして奥の机に移ろうとした。
 ちょっとあった。
「なんでそういう言い方しかできないの?」
 この女はどうやら仏じゃないらしい。
 その女に一歩近づいた。たぶん、ものすごい表情をしてたと思う。ドクターが困った患者に向けるような、こめかみ、あるいはおでことか、そのへんをため息混じりにイジっちゃうようなしぐさ。それでいてダルそうな、そんな表情だったんでしょう。私はどうやら相手を一種の不安状態にさせるのが得意らしい。
 一瞬、女は眉毛を閉ざして、自分の内側で自分に問いかけてるような表情をした。
 なんでこの人のほうが上みたいな態度なの?
 そんな感じ。
「ごめんなさい。以後気をつけます」
 そう言葉を選びながら、その女の背中についてた白いヒモを取った。その女の髪の毛みたいな糸クズだった。
「あ、ああ、ごめんなさい。どうも」
 で、また掃除再開。

 こんな具合に、どうやらいちいちトゲのある口調らしい。で、そうとう感じが悪いらしい。
 そして、あの表情。イラ立たしげでも気だるそうに、余計に相手の神経を逆撫でするらしい。
 中学のとき、先輩から「ホント、ダルそうに歩くよねぇ~」と指摘された。
 背後から。
 試合帰り。
 そのときは調子がよかった。その女バスの先輩は、とても気さくないい人だった。ひどく3点シュートが入る人。
 うん、いい人だった。

ランキング参加中なので、これ乳首。

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